短編
□癒やされたい、君に
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暖かくて思わずあくびをしてしまいそうな春の日、黒い短髪の小柄な少年が、「忍術学園」と大きく書かれた看板の目の前に立っていた。
その顔は、緊張に染まっており、なかなかその看板の横の扉を叩けないでいた。
「ねぇ」
何度も深呼吸をして、いざ叩こうとすると、突然後ろから声をかけられて、少年はびくっとして振り向いた。
「あ…ごめん。驚かせた?」
「い、いえ…」
声をかけてきたのは、少年と同じ年くらいの子だった。
あまりに大きな反応をした少年に申し訳なく思ったらしく、謝られてしまった。
少年は、慌てて首を横に振る。
「こ、こちら、こそ…じゃ、邪魔、だった、よね、ごめん、なさい」
「いいや、そんなことないよ。もしかして、僕と同じ年かなって思って、話しかけたんだ」
「あ、わ、ワタシ、十歳。今年、ここに、入学、する、予定で…」
「そうなんだ!じゃあ、僕と一緒だね。僕も、今年から入学する予定なんだ!」
仲間に会えたような気がして、少年は嬉しくなって、目の前の少年に笑いかけた。
「ねぇ、じゃあ、入ろうよ。試験とかあるなら、遅れちゃいけないし」
「う、うんっ」
2人は、扉を叩いて、返事を待つ。
「ヘム?」
「わ…犬?」
「ヘムっ!ヘムヘムっ」
「わっ、わっ」
扉が開いて、出迎えてくれたのは、不思議な鳴き声の犬だった。
その犬は、2人を見ると、嬉しそうに鳴いて、2人の手を引いた。
されるがままに学園の中に入ると、そこには黒い忍び装束を着た男の人が、受け付けらしきところに座っていた。
すると、不思議な鳴き声の犬は、それを指差した。
「ヘムっ」
「あそこに行けってことかな」
「た、多分…」
2人は、不思議な鳴き声の犬にお礼を言って、受け付けらしきところに向かっていった。
「こんにちは」
「こ、こ、こんにちは」
受け付けの人に挨拶をすると、不思議な顔だったが優しく返してくれた。
「はい、こんにちは。君たち、入学希望の子だね」
「はい」
「は、はい」
「じゃ、早速入学金を払ってね」
「はい……って、試験はないんですか?」
「試験はないよ。入学金さえ払ってくれれば、誰でも入れるからね」
予想していたことを斜め上にいく。
さすが忍術学園。
2人が、入学金を払うと、忍たまが生活する長屋に案内された。
その途中、2人は自己紹介をすることにした。
「そういえば、まだ名前を言っていなかったね。僕は、黒木庄左ヱ門。よろしく」
「あ、ワタシは、三山、詩紀…よ、よろしく、ね…」
「一緒のクラスだと、いいね」
「う、うん。ワタシも、く、黒木くんと、同じが、いいな」
という会話をしていたが、やはり人生はそううまくはいかない。
庄左ヱ門は、は組。
詩紀は、ろ組。
同じクラスになれなかった詩紀は、少しがっかりした。
せっかく、仲良くなれたのに…。
詩紀は、少し暗い雰囲気のまま、ろ組の教室に入った。
教室には、何人かの子がすでに来ており、緊張しているのか、少しそわそわしていた。
空いているところに座ると、近くに座っていた子が立ち上がり、わざわざ詩紀の横に座った。
「はじめまして〜。僕、初島孫次郎。よろしくね〜」
「う、うん。ワタシは、三山詩紀。よ、ろしく、ね」
「詩紀くんって、呼んでもいい?」
「うん。ワタシも、孫ちゃんって、呼んでいい?」
「いいよ〜」
にっこりと優しそうに笑った孫次郎に、詩紀も安心して笑顔になった。
それから、2人は先生が来るまで、話していた。