短編
□(後)
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小平太に山に連れて来られた娘は、小さい小屋で小平太と暮らしていた。
初めは娘は村に帰りたがっていて、小平太が理由を聞くと、仕事がないと生きる意味がないからと言った。
だから小平太は娘にご飯を作るように頼み、なんとか娘をここに置いておくことができた。
そして、呼び名がないと不便ということで、小平太は娘に名前を与えた。
「詩紀、ただいま」
「おかえ、り、小平太」
娘――詩紀は、名前をもらった時とても喜んだ。
だから、小平太はなるべく詩紀の名前を呼ぶようにしている。
今は、小平太が山奥に食べ物を採りに行って帰ってきたところだった。
小平太はよく調理しやすい山菜を拾ってくるが、たまに動物の肉も採ってくる。
帰ってきて早々、小平太は詩紀の額に口づけを落とした。
「ちゃんと、いい子にしていたか?」
「う、ん…」
詩紀には少し自傷癖があるようで、ここに来たばかりの頃は小平太がいない時に無意識に自傷していた。
すぐに気づいた小平太が止めるように教えたが、それですぐになくなるわけではない。
愛しているからこそ、詩紀に自傷してほしくなかった。
「えらいな、詩紀」
「うん…わたし、わるいこと、してない、よ」
薄く笑った詩紀に、小平太は再び口づけた。
もう、この子が可愛くて仕方ないのだ。