短編
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名前がわかっても、話しかけるきっかけがない小平太は、らしくもなくもんもんと悩んでいた。
普段なら、細かいことは気にしない小平太だが、彼女――詩紀のことについては、なぜか気にしてしまう。
どうにか、話しかけるきっかけが欲しいと思った。
そう思った矢先のことだ。
「えー、次回の実習は、くのたまと二人一組で行う。ペアを事前に決めておくように」
これは、まさにチャンスだと思った。
小平太は、授業が終わると、すぐさま詩紀を探しに走った。
そして、廊下を歩く詩紀を見つけて、小平太は声をかけた。
「ねぇ!」
詩紀は少し振り返ったが、首を傾げて前を向いてしまった。
小平太は、今度は詩紀の手首を掴んだ。
「ねぇってば!」
「あ…私?」
「うん」
「なぁに?」
詩紀は、小平太を見つめて、こてん、と首を傾げた。
その仕草が可愛くて、小平太は顔が赤くなる。
「あ、あのさ…私、四年ろ組の七松小平太。今度の実習、一緒に、組まない?」
「今度の?あぁ…え?私?」
「うん」
「私なんかでいいの?」
「…君がいい」
「ふーん…わかった。組もう」
「やった!」
小平太は嬉しくて、飛び跳ねた。
詩紀は、そんな様子を不思議そうに見ていた。
「あ、私、くのたま四年の田村詩紀。実習では、よろしく」
「うんっ、よろしくね!」
詩紀が右手を差し出してきたので、小平太も右手を出して、握手をした。