短編
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運良く、巻物は小平太の予測したところに隠してあった。
そして、無言で喜び合いながら急いで山頂へ向かっている途中、運悪く五年生にみつかってしまった。
五年生は、しつこく追ってきた。
今は、なんとか草陰に隠れているが、いつ見つかるかは時間の問題だ。
詩紀は、不安そうに呟いた。
「…どうしよう、このままじゃ…」
「……私にまかせろっ」
不安そうな詩紀を見て、小平太は巻物を詩紀に持たせた。
そして、懐の苦無を取り出し、草陰から飛び出した。
「先輩!勝負しましょう!」
「いい度胸だ!」
その先輩は、勝負好きで有名だから、小平太はあえてそう言った。
草陰をちらりと見ると、詩紀が不安そうな顔をしていたので、小平太は安心させるように笑い、行けと合図した。
すると、詩紀は心配そうにしながらも頷き、音もなく山頂に向かった。
「よーし、七松、負けたら夕飯奢りな!」
「私、唐揚げ定食がいいです!」
「俺はハンバーグ定食だ!」
結果的に、実習は合格した。
五年生との勝負には、負けてしまったけれど。
実習が終わる頃には、小平太はぼろぼろだった。
先生に結果を聞いたので、小平太は医務室に向かおうとした時、後ろから弱々しく装束の端を引っ張られた。
「七松くん」
「あ…田村…」
詩紀は、小平太のぼろぼろな姿を見て、申し訳なさそうな表情になった。
「あの、さっきは、ありがとう。あと、ごめんね」
「どうして謝るんだ?」
「だって、痛い、でしょ?医務室、行こう。着いてく」
「待って、ちょっと、私の話を聞いてくれないか」
「?うん」
詩紀は、不思議そうに小平太を見つめた。
「えっと、まず、謝らなくていい。あの時は、ああするのが一番良かったと思うし、田村が巻物を持って行ってくれたから、合格できたんだしさ。むしろ、お礼なら私がしなきゃな、ありがとう」
「う、うん」
詩紀は、なんだか納得できたようなできないような顔をしながらも、小さく頷いた。
一方、小平太は詩紀が心配して、保健室に着いていく、て言ってくれたことが嬉しくて、痛みも忘れられそうだった。
小平太を気づかうように、詩紀は優しく腕を掴み、医務室へ連れて行った。
そして、医務室に着くと、ちょうど新野が薬を調合していたようで、部屋が薬臭かった。
「あの、新野先生、七松くんが、実習で怪我をしたので、診てあげてください」
「おや、本当にぼろぼろですね、さ、ここに座って」
新野は、自分の前に小平太を座らせるように言った。
小平太が座ると、詩紀も後ろに静かに座った。
そして、手当てが終わり、医務室を出ると、小平太は詩紀の手を握った。
「付き添い、ありがとな」
「気にしないで、私がしたくてしたんだから」
「…今度、会いに行っていい?」
「私に?」
「うん」
詩紀は、驚いた顔になったが、小さく頷いた。
小平太は、嬉しくなって、思わず笑った。
「じゃあ、またな」
「うん、またね」
名残惜しそうに、小平太は詩紀の手を離して、お互いに長屋に帰った。