短編
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朝、詩紀が廊下を歩いていると、向こうの方から小平太が歩いてきていた。
そして、詩紀に気づくと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「詩紀!おはよう!」
「おはよう、小平太くん」
「あれ?なんか、元気ない?」
小平太が心配そうに詩紀に触れようとした時、詩紀はなぜかその手を振り払ってしまった。
パシッと乾いた音がその場に嫌に響いて、詩紀ははっとした。
少し悲しそうに、振り払われた手を見つめる小平太が目に入り、詩紀は罪悪感で胸が痛んだ。
「ご、ごめんね、あの、今のは、違うの」
「…ううん、私も、気安く触ろうとして、ごめんな」
「あっ…」
小平太は、詩紀から目をそらし、早足でその場を去っていった。
引き留めようとした手は、空を掻いた。
早足で、校庭の隅まで来た小平太は、草陰に隠れるように膝を抱えた。
どうして、振り払われたんだろう。
前は、手を握っても、大丈夫だったのに。
私のこと、嫌になっちゃったのかな。
どうしたら、詩紀に嫌われないで済むの。
ねぇ、詩紀、
好きにならなくてもいいから、嫌いにならないで。
小平太は、いつの間にか涙が溢れて、袖を濡らしていた。