短編
□真愛
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友人に言われて、詩紀は小平太を探していた。
ちょうど、今の時間は鍛錬しているか、委員会活動をしているだろうから、詩紀は校庭を歩いていた。
すると、どこからか聞き覚えのある声がきこえてきて、詩紀は小さく名前を呼んだ。
「小平太…」
「呼んだか?」
彼は、ボフッと詩紀の足下から土だらけの顔を出して、にかっと笑った。
どうやら、塹壕を掘っていたようだ。
詩紀は、小平太の目線に合わせるようにしゃがみ込み、囁いた。
「…今日の夜、裏々山の山頂で、待ってるね」
「…え」
詩紀は、それだけ言い残して、その場を早足で去った。
彼は、来てくれるだろうか。
寝巻きと羽織だけを着て、詩紀は裏々山の山頂に来ていた。
時間の指定をしなかったから、小平太は来ないかもしれない。
来なかったら、詩紀は小平太と別れるつもりだ。
もしからしたら、あっちは付き合っているつもりなんて、微塵もなかったかもしれないけれど。
詩紀は、山頂にある大きい岩を背もたれにして、星空を見上げた。
寒いけれど、星は綺麗だった。
しばらくすると、後ろからがさりと音がして、振り向くと小平太がいた。
そして、薄着の詩紀を見て、慌てて駆け寄ってきた。
「こんな寒い格好で…ちゃんと着ないとだめだぞ」
小平太は、自分が着ていた羽織を詩紀に着せてやった。
詩紀は、小平太の手を握って、となりに座らせた。
「…詩紀?」
「急に呼び出して、ごめんね。あのね、ちょっと…いいかな」
詩紀は、小平太の腕に抱き着いた。
小平太は、驚いて詩紀を突き放した。
すると、詩紀は傷ついたような表情になり、すくっと立ち上がった。
「…私は、小平太の、なに?ただの、からかいがいのある女だったの?あの時、私が頷いたのを見て、心の中で、笑ってた?面白かった?恋愛経験のない女をからかうのは」
「ち、違う!からかってなんかない!」
「じゃあ、あれは、私の勘違いだったんだ…そっか…ごめんね」
詩紀は、泣きそうな表情で、その場を去ろうとしたが、小平太に手首を掴まれて、それができなかった。
「待って、詩紀、行くな」
「…期待させて、楽しい?」
「違う、詩紀、違うんだ。聞いてくれ」
小平太は、詩紀を強い力で抱き寄せて、耳元で囁いた。
「私は、ただ、詩紀に無理させたくなくて、抑えてた」
「抑えてた…?」
「詩紀は、恋人がいたことないって言うから、急に事を起こしたら、嫌われると思って…だから、今さっき詩紀を突き放しちゃったのは、あんまりくっつかれると、理性が飛びそうになるからで…」
どうやら、本当の事の様だ。
顔は見えないが、詩紀を抱き締める腕がかすかに震えていた。
「…不安にさせて、ごめんな」
「私、小平太になら、なにされてもいいよ」
「な、なに言ってるんだ。自分は、大事にしなきゃだめだぞ」
「でも、小平太は私を大事にしてくれるんでしょ」
「それは、そうだけど…」
詩紀は、自分から小平太に抱き着いた。
「ね、小平太…お願い」
「………」
小平太は、無言で詩紀を抱き上げると、ばびゅんと忍術学園に帰った。
そして、その夜、ようやく二人は繋がったのだった。
その夜のことがあってから、小平太は詩紀を一等甘やかして、可愛がった。
惚気話を聞かされるお互いの友人は困ったもんだと、愚痴を言い合うのだった。
終わり