短編

□海の朝ご飯
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詩歩は、ただのしがない町娘。

しいて言うなら、毎朝早くに起きて父の手伝いをしている、しがない魚屋の娘だ。

今日も、いつもどおり早くに起きて、詩歩は店の準備をする。

父は、海に行って魚を獲ってきているから、詩歩が起きる時にはいない。

まず、店のまわりを掃いて、それが終わったら、父が海から帰るのを待つあいだに、朝ご飯を作っておく。

いつもどおりのはずだった。

父が、知らない人を連れてくるまでは。




「詩歩ー、帰ったぞー」

「おとー、おかえ、り………だれ?」


帰ってきた父の隣には、知らない男がいて(男というには若いが)、詩歩は思わず固まった。


「突然すみません、俺は、重といいます」

「は、はぁ、どうも、詩歩です」

「いやぁ、実はな、海で魚を獲っていたら、急に足をつっちまってなぁ。溺れていたところを助けてもらったんだ」

「…おとーは危なっかしいなぁ…。重さん、助けてくれてありがとうございました。お礼に、朝ご飯食べていきませんか?」

「そのつもりで連れてきたんだ!」


父はニカッと笑って、重を家に入れた。

詩歩も、父の命の恩人ということならと、重を受け入れた。

早速、詩歩は囲炉裏のそばに座る二人を見て、ご飯をよそったり、おかずを小鉢に移したりした。

そして、ご飯の準備が出来ると、お盆にのせて、重と父と自分の座る前にそれぞれおいた。

「わぁ、美味しそうですねぇ」

「おう、詩歩の作る飯はうまいぞ」

「…褒めてもなにも出ないですよ」

父以外にご飯を振る舞うのは初めてなので、少しだけ緊張していた。

父の掛け声とともに手を合わせて、三人はご飯を食べ始めた。
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