短編
□癒やして下心
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好きな女の子に接する時、下心がまったくない男子なんているはずない。
「詩紀!見つけたっ!」
「な、七松先輩…」
「もー、探したぞー、詩紀は小さくて見つけにくいなぁ」
「ご、ごめんなさい…」
くのたま五年生の詩紀は、背が低い。
そのうえ動きもちょこちょこ小さくて、まるで小動物のようだ。
そんな風に思われている詩紀は、まわりから餌付けされていた。
本人は、そんなことには気づいていない。
まわりの人たちはよくお菓子をくれるなぁ、くらいにしか思っていないのだ。
そのなかでも、とくに詩紀を構いに来るのが、忍たま六年生の七松小平太だ。
小平太は、詩紀に出会った日から、頻繁に詩紀に会いに来る。
お菓子とか花とか、とにかく女の子が好きそうなものを持って、詩紀に話しかけてくるのだ。
しかし、今日は申し訳なさそうな表情で詩紀のもとにやってきた。
「詩紀、ごめんな、今日はなんにも持って来れなかったんだ」
「えっ、そんな、気をつかわないでください。むしろ、私がなにか七松先輩にお礼をしなきゃいけないのに…」
「…よし、そう思うなら、少し付き合ってくれ」
「はい、もちろんです」
詩紀は迷いなく頷いてくれたので、小平太はひょいと詩紀を横抱きすると、走りだした。
「ふわっ!?な、七松先輩っ!?じ、自分で歩けますよ!」
「なはは!細かいことは気にするな!」
こうなってしまっては、もう小平太を止めることはできない。
そう悟った詩紀は、黙って小平太に身を預けた。
一方小平太は、抱き上げた詩紀の柔らかさや、小ささ、そして詩紀の香りに頭がくらっとした。
自分の中で、詩紀は自分の足の速さについて来られないだとか、詩紀が疲れないようにだとか言い訳しているけれど、結局は下心かあってこその行動なのだ。
(詩紀…やわらかくて、いい匂いがする…)
小平太が、走りながらも詩紀の感触にうっとりしていると、突然詩紀が小平太の首に抱き着いた。
「詩紀っ…!?」
思わず足を止めて、詩紀を至近距離で見つめた。
「ご、ごめんなさいっ…落ちそうになってつい…!」
詩紀はあわあわと慌てて、腕を離した。
すると、小平太はそれを引き止めた。
「いや、そうだな、そうやって掴まってて貰うと、安定して助かるぞ」
「わ、わかりました」
詩紀は、おずおずと小平太の首に抱き着く。
しっかり抱き着いていることを確認すると、小平太は再び走り出した。
そうすると、詩紀に密着する小平太の身体が熱くなってきてしょうがない。
(うぁ、なにこれなにこの状況!ここは天国なのか?そうなのか?私の身体に詩紀のやわらかいのが…あたって…あ、やばい、鼻血出そう)
鼻血が出ないようになんとか食いしばって走り続けて、ようやく目的地に着いた。
「ほら、着いたぞ」
「え…?うわぁ…!!すごい!!」
小平太が連れてきたのは、眺めの良い裏々山の山頂だった。
詩紀は遠くの山まで見えることに感動して、うっとりと景色を眺めた。
そんな表情を見た小平太は、詩紀が可愛くて仕方がなくなって、横抱きされたまま景色を見ている詩紀をうっとりと見つめる。
「綺麗ですね…」
「あぁ、ほんとにな…」
「ずっと見ていられそうです」
「私もだ」
詩紀は景色のことを言っているのに、小平太は詩紀を見て頷いていた。
しばらくそうしていると、詩紀は自分がいまだに横抱きされていることに気づいて、わたわたと慌てた。
「あっ、ごめんなさい!いつまでもこんな、抱っこされちゃって…お、降ろしてください」
「…別に、いいのに」
「え?なんですか?」
「…なんでもない!」
小平太の呟きが聞こえなかったようで、きょとん、と首をかしげて詩紀は小平太を見つめる。
それに笑顔で首を振って、名残惜しそうに詩紀を地面にゆっくりと降ろした。
詩紀は、小平太にふわりと笑いかける。
「なんだか、これじゃあ、また私が七松先輩に貰ってしまったみたいですね。いつも、ありがとうございます」
「うん…私がしたくて、してることだからさ」
小平太は、詩紀の柔らかい笑みに胸をときめかせた。