短編

□癒やして下心
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その日の夜、小平太は昼間の詩紀の笑顔とか、体温とか柔らかさや匂いが忘れられなくて、なかなか眠れなかった。

思い出しただけで、耳が火照って、妄想が止まらない。


『…こへぇたせんぱい…』

彼女が目を潤ませて誘惑してきたら、確実に理性を失ってしまう。

『わたし…もう、我慢できないです…』

私だって、我慢できない!

『せんぱいので…いっぱいにして…』

っ!!!

はっと気づいたら、小平太は自分のモノに手を伸ばしていた。

虚しい妄想をして、自分を一時的に癒やす。

これしか、小平太は自分を慰める方法を知らない。

「すきだ、詩紀…好き、好き…」

彼女の一番近くに居たい。

彼女の一番の存在で居たい。

居たい、居たい。

その晩、小平太は詩紀で色々な妄想をして過ごした。

翌日、午前の授業が終わり、小平太が食堂に行くと、詩紀が他のくのたまたちと楽しそうにお昼を食べていた。

その様子を盗み見ながら、おばちゃんからお昼を受け取り、詩紀の見える席に座る。

「詩紀、あんた相変わらず小さいわねー」

「ほら、もっと食べなさい!私の少しあげるわ」

「えー?そんな、いいよ。お腹に入んない」

「身長は小さいくせに、出るとこは出てんのよね。どうやったらそんな大きくなんのよ」

「?なんのこと?」

「これよ!」

そう言って、くのたまは詩紀の胸を鷲掴んだ。

「ふひゃ!」

驚いた声可愛すぎか。

普段、さらしを巻いている詩紀は、あまり胸の大きさが目立たないが、実際はかなり大きい部類なのだ。

「この!ろり巨乳め!」

「ちょっと、その呼び方やめてってばぁ」

その会話を盗み聞いていた小平太は、思わず鼻を押さえた。

やばい…
いろいろ出そう…

想像しただけで、 もういろいろ大変なことになっている。

その晩も、あまり眠れなかった。

今まで妄想してきた詩紀とは違う、胸が大きくて柔らかい詩紀が、小平太を何度も誘惑してきて、その度に気を遣ってしまった。

『こへ、せんぱい…もっと…ほしい、です…おねがい…』

そんな風に言われたら、断れなかった。

そんな日が続くと、さすがに小平太も眠れないせいで疲れが出てきていた。

いつもの元気が三割減である。

そんな様子の小平太を保健委員長の伊作が、心配そうに話しかけてきた。

「小平太、最近元気ないみたいだけど
…どうしたの?なんだか、隈も酷いよ」

「…あぁ、伊作。いやなに、ちょっとしたことだ。心配するな」

「心配するよ!最近寝てないんでしょ!そんなんじゃ、体壊しちゃうよ!」

「細かいことは気にするなって」

がみがみ怒る伊作から逃げてから、小平太はそっと懐に手を伸ばす。

そこには、この間町に出かけたときに買った可愛らしい髪飾りがあった。

この髪飾りを見たとき、絶対に詩紀に似合うと思い、気がついたら購入していた。

いつ渡そう、と考えていると、ふわりと小平太のよく知る匂いがした。

その方を見ると、詩紀が重たそうな箱を持って歩いていた。

きっと、午前の授業で使った道具だろう。

今日の道具を仕舞う係が詩紀だけだったのだろうか。

小平太は、すぐさま詩紀のもとに駆け寄った。

「詩紀!」

「あっ、七松先輩。こんにちは」

「おう、なんか久しぶりだな」

「そうですねぇ」

嬉しそうに笑う詩紀を見ると、期待してしまいそうになる。

そんな考えを追いやり、小平太は詩紀の荷物をすっと奪う。

「え?先輩?」

「私が持ってやる。重たいだろう?」

「そんな、大丈夫ですよ。悪いですし…」

「まあ、細かいことは気にするな!」

そう言って、小平太は詩紀がどこに運ぼうとしていたのかを問い掛けた。

すると、詩紀は渋々答えて、歩き出した小平太について行った。

目的のところに運び終えると、小平太はくらりと眩暈がした。

そんな様子を敏感に察した詩紀は、よろける小平太を小さい体で支えた。

「七松先輩!?」

「…大丈夫」

「大丈夫じゃないです!保健室に行きましょう!」

「ほんとに、だいじょーぶ…」

そう言って、小平太はふっと力が抜けたように、その場に倒れ込みそうになる。

それをなんとか詩紀が支えて、ゆっくりと地面に横たわらせた。

その拍子に小平太の懐からかしゃん、と髪飾りが落ちて、硝子で出来た飾りが少しひび割れてしまった。

「あっ……」

気を失った小平太はそれに気づかなかったが、詩紀はそれを拾ってどうしよう…と悩んだ末に、とりあえず落とさないように持っていることにした。

そして、すぐさま伊作を呼びに走った。
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