短編

□そばにいて欲しいだけ
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ある日、小平太が山道を鍛錬のために駆け上がっていると、山にはあまり見かけない色が視界の端に入り、思わず足を止めた。

そちらの方にそっと近づいてみると、草影に隠れるようにして眠る小さい子供がいた。

その子供の髪は漆を塗ったような朱で、その美しさに小平太は見惚れてしまった。

思わずその子のそばにしゃがみ込み、そっとその子を抱き上げる。

低めの体温と、すやすや眠るあどけない表情に、小平太はこの子が欲しくてたまらなくなってしまっていた。

「…こんなとこで、寝てるから悪いんだ」

そう呟いて、小平太は裏々々山の隠れ家にその子を連れて行った。

隠れ家に着いて、その子を優しく寝かせる。

いまだに起きる様子はなく、気持ちよさそうに寝息をたてている。

その顔をうっとり見つめて、小平太はその子の唇に自分のを重ねた。

すると、額にこつりと何かがあたり、唇を離してその子の額を覗き込むと、前髪に隠れて見えなかったが、その額には小さい角が生えていた。

驚いてそっと角に触れると、その子のまぶたがわずかに震えて、ふと目を覚ました。

「…なに…?…だ、だれじゃ、お前!」

突然見知らぬ男が目の前にいて驚いたのか、その子は小平太を睨みつけた。

「私、小平太。山道で寝ているお前を見つけたから、風邪を引くと思って連れてきた」

「わ、わしは風邪なんか引かぬぞ!」

「なんで?そう言い切れるんだ?」

「だ、だってわしは、立派な小鬼じゃからな!もう成人も迎えたし、風邪などそう引かんのだ」

「小鬼…」

小平太が小鬼をじっと見つめると、何を勘違いしたのか、小鬼は胸を張った。

「どうじゃ!小鬼じゃぞ!怖いじゃろ!」

わっと手を広げて驚かしたかったのか、飛びついてきた。

驚くどころか、可愛すぎてどうにかなりそうだった。

小平太は、ぎゅうっと小鬼を抱き締める。

「な、なんじゃ、やめろ!」

「可愛いなぁ…なあ、小鬼、ずっとここにいろよ」

「なに言っておるんじゃ!わしは帰る!」

すっかり機嫌を悪くした小鬼は、小平太の腕から逃れようともがくが、小平太は小鬼を離さない。

思わず小平太の腕に噛み付くが、それでも彼はびくともしなかった。

むしろ、小平太はその行動にぞくりと興奮して、舌を出す。

「悪い子だなぁ」

そう言って、小鬼を逃がさないように小屋においてあった縄を嫌がる小鬼の首に巻いてやり、その縄の先を柱に括りつけた。

そして、解けないように固結びしてやった。

「悪い子には、お仕置きしてあげないとな?」

小鬼に噛まれた部分を舐めて、小鬼を見つめた。

その視線になにか狂気的なものを感じ取った小鬼は、かたかたと怯え始めた。

そして、なんとか首の輪を外そうとするが、固く結ばれて解けない。

「や…いやじゃ…これ、はずして…わしを帰して…」

急に怖くなって、部屋の隅に逃げるが、小平太は構わず小鬼のそばにしゃがみ込み、優しく頭を撫でる。

そして、耳もとで甘く囁いた。

「帰すわけ、ないだろ?一生、私のもとで、可愛がってやる」

「ひっ…」

額の角をベロリと舐めて、怯える小鬼を抱き締めた。
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