短編

□心臓に爆弾
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『……ねえ』

とうとう堪えきれなくなって、私は目の前で私の顔を凝視する恋人に声を掛けた。その人はいつもと変わらぬ様子で「何だ!」と元気に返してくる。何だ、じゃないよ。

『何でそんなに見つめてくるの』

ちょっと恥ずかしいんだけど、という言葉は余裕のある体に見せたいから呑み込んでしまって。私は小平太から少し目を逸らしながらそう尋ねた。

「何でって、私は明日から長期実習だからな!愛しい詩紀の顔を目に焼きつけておこうと思って」

ばくん。

その言葉を聞いた瞬間、心臓が破裂したみたいに大きく高鳴って。駄目だ、余裕かましてらんない。私は自分の頬が熱くなっていくのを感じながらそっぽを向いて、『ソウデスカ』と若干棒読みの返事をした。大体、六年生に今度長期実習があるというのを仙蔵から聞いた時点で、小平太に対しての寂しさとか離れがたさとか必死で我慢してきたのに。今ので全て台無しになってしまった気がする。どうしようもなく愛しく感じてしまう。

「何だ、詩紀は寂しいのか」
 
『……当たり前じゃん、いつ帰ってくるの』
 
「実習が終わり次第だな!」
 
『それじゃ分かんないよ』
 
「細かいことは気にするな!すぐに終わらせて帰ってくる!」

 
そう言って、彼は私の頭をがしがしと、でも確かに優しく撫で回した。そして、

『っ、……』

私の唇に、小さく接吻を落とした。突然のことで目を見開く私。対して彼はいつもの豪快な笑みを浮かべて私を抱きしめた。

「心配するな、すぐ帰る。そうじゃないと私も我慢できないからな」
 
『……ん』

それはお互い様だ、と私は今一瞬の温もりを噛み締めるかのように、強く強く彼を抱きしめ返した。


終わり
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