短編
□ココア
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しばらくしてようやく作業が終わると、詩紀は大きく背伸びをした。
「お疲れさん」
「えっ」
隣から聞こえた小平太の声に、詩紀は体を固まらせた。
ま、まだいたの…?
やだもう…恥ずかしい…
「私も手伝ってあげられればいいんだけどさ、なにも知らないやつが勝手に作業できないからな、ごめんな」
「い、いえ…そんな…謝らないでください」
「よし、じゃあもうあがれるんだろ?もう遅いし、私が送ってってやるな」
「大丈夫ですよ!それに…悪いし…」
「なに言ってるんだ、好いた女を夜道一人で歩かせるなんて、私にはできない。だから送らせてくれ」
「……えっ??」
いま…
なんて言ったの…?
「な、七松さん…いま…」
「…ん…?あぁ、だからな…」
小平太は、詩紀の耳元に口を寄せて、低い声で囁く。
「三山が…好きなんだ。好きだから、心配するし、夜道を一人で歩かせられない」
詩紀は顔を真っ赤にして、信じられないというように小平太を見つめた。
その表情を見た小平太は、いたずらっぽく笑って詩紀の赤くなった頬に口付けた。
「そんな顔してると、食べちゃうぞ」
…もう、食べられてます
頬も、心も
そう意思表示するように、詩紀は目を伏せて小さく頷く。
すると小平太は詩紀の手をしっかり握って、歩き出す。
しばらくのあいだ、この夢のような熱さはなくなってくれないだろう。
好きの二文字か恥ずかしくて言えないけれど、気持ちが伝わるように詩紀は手を握り返した。
終わり
→あとがき