短編
□眼鏡っ娘に夢中
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※眼鏡が一般人でも手に取りやすいという設定のもと書いています
くの一教室で目が悪い子といえば、詩紀しかいない。
しかし、目が悪いにも関わらず眼鏡をしないのは眼鏡というものが苦手だからだ。
それに、昔から目が悪かったから今の視力にそんなに不自由は感じていない。
だが、やはり目が悪いというのは自覚はなくとも、生活に支障があるようで…。
分かりやすい罠にもすぐ引っかかるし、友人が遠くから手を振っても気付けないし、街に買い物に行ってもすぐに友人とはぐれてしまう。
それでものんきな詩紀に痺れを切らした友人が眼鏡を買いに行かせて、ようやく視力を正常にしたのだった。
「詩紀、やっぱり眼鏡似合ってるよ」
「えー…なんか落ち着かない…」
「でも、これで罠にもかからないし、遠くの人にも気づくし、町ではぐれないね!!」
「返す言葉も御座いません」
そう言われてしまっては何も言えない。
確かに、眼鏡をかけたことによって視界はとても良いし、今まで見えなかったものがよく見える。
「わー、すごいねー、あんな高い所の鳥まで見えるよ」
「普通は見えるもんなのよ」
「人間ってすごいねー」
「そこから!?」
普段、アホなことしか言っていない詩紀が眼鏡をかけると少しは利口に見えるのだが、口を開けばアホ丸出しだった。
「ほら、アホなこと言ってないでご飯食べいくよ」
「ほーい」
そして食堂に行くと突然鋭い視線を感じて、詩紀は思わず身構えるが友人に頭を叩かれて構えをとく。
「アホなことしないの」
「ごめんなさい、殺気を感じて思わず」
「馬鹿なこと言わないの」
「はい」
もはや漫才である。
食堂にいた数人がくすくす笑っていたが、詩紀たちは何も気にせずおばちゃんから定食をもらって食べ始めた。
しばらく食べていると、詩紀の目の前の席に忍たまの六年生が座った。
そして、じっと詩紀の顔を見つめて動かない。
先程の鋭い視線は彼のものだったらしい。
彼からの遠慮のない視線にご飯が喉を通らなかった。
ふと彼を見つめ返すと、彼は頬をぼっと赤くして目をそらした。
な、なんなんだ、この反応は…
どう対応したら…!
助けを求めるように隣に座る友人を見ると、矢羽音で冷たく言われた。
"自分でなんとかしろ、くのたまだろ"
くのたま関係ないし!
そう思ってそれを訴えても、友人が助けてくれるはずもない。
仕方なく、詩紀は再びご飯を食べ始める。
すると、再び視線を感じたが無心でご飯を食べた。
ようやく食べ終えて、詩紀が友人とともに席を立つと、その忍たまも慌てて立ち上がる。
「詩紀、私そういえば予習しなきゃだった!先行ってるね!」
「え」
"そいつなんとかしてからくの一教室に戻ってこいや"
そんな矢羽音を残して友人は走り去って行った。
残された詩紀は、ふと後ろを向くと先程の忍たまがなにか言いたげに詩紀を見ていた。
仕方なく彼に近づくと、彼は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あ、あの、えーっと…さっきの視線は…なんだったのでしょうか」
「!!あのな!お前の眼鏡!すごく似合ってたから!」
「え」
「眼鏡のお前、すごく可愛いと思った!だから、ずっと見てたいと思って…」
「ちょちょ、ま、待ってください、意味わかりません」
突然の言葉に混乱して、詩紀は後退る。
すると、後退った分だけ彼も詩紀に近づいてきて、詩紀は足りない頭でいろいろ考えた。
「意味わからなくないだろ?お前が可愛いんだ」
「め、眼鏡を外すと…?」
詩紀は眼鏡を取って、小平太を見つめた。
「…うーん…それも可愛いけど…眼鏡あった方がいい!」
「なんて正直な!!」
眼鏡が本体と言っているようなもんだ!
失礼な!
詩紀は盛大に舌打ちをして、小平太の頬に一発張り手を加えると、そのまま眼鏡を取った状態でくの一教室に向かった。
残された小平太は張り手された頬を押さえて、詩紀が去っていった方をじっと見ていた。