短編

□眼鏡っ娘に夢中
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部屋に戻ると、友人がごろごろしていて、詩紀もごろごろすることにした。

すると、眼鏡をとった詩紀を見て、友人は不思議そうに問いかけてきた。

「あれ?眼鏡とったの?」

「さっきの忍たまがクソ失礼なこと言ってきたから、眼鏡なんかしてやるものか」

「なになに、眼鏡が壊滅的に似合わないって?」

「逆。眼鏡が本体でお前はただの付属品。眼鏡がなきゃてめぇはただの不細工だと」

「……あいつ、そんな失礼なこと言うやつだっけな」

「え?なに?」

「や、別に、なんでもない」

さっきの忍たま──小平太のことをよく知っている友人は疑問に思っていた。

幼馴染のあいつは確かにデリカシーのないやつだが、気になる子に対してそんな酷い言い方はしないはず。

そもそも、あいつは眼鏡属性(つまり眼鏡っ娘萌え)だから、もともと気になっていた子が眼鏡をしたことで、彼の心を完全に奪ってしまったに違いない。

しかし、まぁきっとあいつの言い方も悪かったのだと思う。

詩紀は、相手の言葉を誇大して捉える癖があるから。

良いことも悪いことも。

だから、詩紀の癖を分析して小平太が言った言葉ならば

「眼鏡をしてた方が可愛い」

とかなんとか言ったのだろう。

まったく面倒くさい同室と幼馴染だ。

「…しょーがないねぇ」

「なにが?」

「ちょっと来なさい」

「えー、ごろごろしたばっかりだよ?」

「うるせぇ来るんだ!」

「横暴!!」

友人が突然詩紀の手を引っ張り、部屋を出てどこかへ向かう。

こうなったら友人が止まることはないので、詩紀は身を任せて歩く。

しばらく歩いて、突然友人は足を止めたので、詩紀は友人の体にぶつかる。

「ちょっと…急に止まられたら止まれないのがお約束だよ?」

「それより、詩紀。あそこの忍たまを口説き落としてきて」

「華麗なスルーに私泣きそう」

「ほら、早く!」

背中を押されて、詩紀はしぶしぶ友人に標的にされた忍たまに近づく。

目が悪いのでどんな人かはわからないが、まぁいつも通り目が悪いのを口実に顔を近づけてなんとか口説けばいいか。

ぼーっとしているのか空を見つめる忍たまのそばに行き、彼の顔を覗き込むようにした。

すると、ぼーっとしていた忍たまには慌てて飛び退き、こちらを伺っていた。

「な、なんで…?」

忍たまの問いかけは少し不自然に感じたが、詩紀はあまり気にせずなんでもないように答えた。

「ぼーっとしてたらから…ちょっと気になって」

「えっ」

「どうしたのかなって、悩みごとなら聞いてあげるよ?」

そう言ってにっこり微笑んであげると、目は悪いが目の前の彼の顔が真っ赤になっているのはわかった。

手応えあり、とほくそ笑んでいると彼は大胆にも詩紀を抱き締めた。

「はっ?」

「さっきの!私の言葉が足りなかったから、お前を傷つけてしまった!すまん!」

「え?うそ、まさか…」

彼の言葉により、先ほど食堂で会った彼──小平太だったようだ。

思わず逃げようとするが、小平太の力は強くて逃れられなかった。

逃げられない詩紀に向かって、小平太は言葉を続ける。

「でもな、私、前からお前のこと可愛いと思ってたんだ。そしたら、さっき眼鏡かけてて、ますます可愛く見えてそれであんなことを口走ってしまった」

申し訳なさそうな声音に、詩紀はどぎまぎした。

そして、抱き締められているせいで、かなりの至近距離にある小平太の顔に詩紀は顔が熱くなった。

男の人をこんな近くで見つめたこと、ないのに。

それにこんな風に抱き締められたこともないし、同い年なのに大人っぽい表情も、なにもかもが初めてで詩紀の心臓は速くなる。

「許して、くれないか?私はお前の全部が可愛いと思うし、全部好きだ。でも、眼鏡をかけたお前も好きなんだ」

「…眼鏡が本体、とか思ってない…?」

「そんなこと思うわけない!それに詩紀がかけるから、なおさら可愛いと思うんだ!」

「そ、そう…」

こんな直球な言葉は初めてだったので、詩紀はくのたまらしくうまくかわせず、しどろもどろになりながらうつむく。

そして、ふと小平太に抱き締められている今の状況に、我にかえってじたじたと暴れて小平太の腕から逃げ出した。

「あ、甘い言葉をはいたって、そうはいかないよ!あ、あんたのこと、好きになんかなってないんだから!!」

捨て台詞をはいて、詩紀はその場から逃亡した。

ただ、小平太には真っ赤になった顔は隠せなかったようで、取り残された小平太は詩紀の可愛さに一人で悶えていたという。




終わり

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