長編

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―、――きて。


声がする。

いったい、誰の?


―きりか、おきて、きりか。


優しくて、泣きたくなるこの声には、聞き覚えがある。


「きりか、きりか」

「…たたら…?」


ぼんやりとする頭をそのままに、重いまぶたを開いて、自分の名前を呼ぶ声の主の名前を呼び返した。

目の前には、彼女――絣 鑪(かすり たたら)の顔があって、霧花は安心して再びまぶたを閉じようとした。


「霧花さん…?」

「ふぇ…?」


自分を呼ぶ鑪とは別の声に、閉じようとしたまぶたが思い切り開き、頭が一気に覚醒した。

そういえば、今の時間って…。


「授業中に居眠りなんて、余裕なのね?」

「ぁ…しな、せんせ…」


にっこり笑った彼女――山本シナは、霧花がしっかりと起きたことがわかると、素晴らしい笑顔で言い放った。


「授業が終わったら、ここに残りなさい。課題をこなしてもらいます」

「……はい」


となりで、小さいため息が聞こえた。

霧花は、居眠りした自分を心底呪いたくなった。


















こういう日の授業に限って、終わるのが早い。

鐘がなると同時にお昼ご飯を食べに、くのいち教室の子たちが食堂に向かいだした。

霧花は、心配そうにこちらを見つめる鑪に、先に行くように言った。


「すぐに終わらせるから…先に行ってて」

「…無茶しないでよ?」

「うん、大丈夫」


鑪は、何度かこちらを見つめて教室を出て行った。

教室にひとりになった霧花は、シナが課題を持って来るのを待った。


「お待たせ」


シナは、すぐにやってきた。

片手に、紙を一枚持って。

きっと、あの紙に課題が書いてあるに違いない。

そう思っていると、シナは霧花の予想通り、持ってきた紙を彼女に渡した。


「…これが、課題よ」


渡された紙に書いてある内容を見て、霧花は青ざめた。

“忍たまと町に行って、恋仲と思わせるべし”

よりによって、苦手な色の課題だなんて…


「今度の休みまででいいですから」

「…はい」


これはもう、彼に頼るしか…

そう考えながら、教室を出て食堂を目指して歩いていると、ちょうど探していた彼が先の方に誰かと歩いているのが見えた。

霧花は、思わず矢羽音で彼に話しかけた。


[…滝]


それに前を歩く彼――平 滝夜叉丸は、振り向いた。


[…霧花?どうした?]

[ちょっと…頼みがあって…]

[わかった、聞こう。待っていろ]


そう言うと、滝夜叉丸はとなりを歩いていた忍たまに声をかけると、こちらに向かってきた。

だが、そのとなりの忍たまも何故か一緒にこちらにやってきていた。
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