長編
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今日の授業がすべて終わり、霧花は教室で大きなあくびをした。
丸一日、座学だったので、眠くてたまらないのだ。
鑪を含め、くのたま四年生は用事があるらしく、授業の終了とともに、慌ただしく教室を出て行った。
霧花には、用事がこれっぽっちもないので、夕食の時間になるまで、少し縁側で涼もうと、教室を出た。
そして、縁側に座って、うとうとしながら涼しい風を受けていると、不意に膝に何か温かくて、ふわふわしたものが乗っかり、霧花は閉じかけていた目を開いた。
膝を見ると、そこには…
「…いぬ?」
耳の尖った灰色の、少し体の大きい犬が、霧花の膝に前足と頭を乗せていた。
恐る恐る頭を撫でると、犬は嬉しそうに、霧花の手に頭を押し付けた。
「この子…もしかして、生物委員会の…?」
もしそうなら、きっと今頃忍たまの方で、生物委員が探しまわっているだろう。
まさか、こんなところにいるとは知らずに。
そう思ったら、気の毒に思えて、霧花はいまだに甘えている犬の体を優しく叩いて、立ち上がらせた。
そして、霧花は犬に通用するかはわからないが、手招きして、忍たまの教室がある方へ歩き出した。
すると、犬はしっかりと後ろを着いてきていたので、霧花はほっとしながら、忍たまの知り合いに出会えるといいなと、少し不安になった。
忍たまの敷地に来ると、いざどうしたらいいか、と悩みそうだった。
とりあえず、歩くしかないと判断し、まずは食堂を目指すことにして歩き出した。
なるべく、忍たまに会いたくない霧花は、人気のなさそうな道を通った。
もう少しで食堂、というところで、どこからか、誰かを呼ぶ声がした。
「くう太ぁ!どこ行ったんだー!くう太ぁ!」
くう太という声に、後ろの犬の耳がぴくりと動いた。
霧花は、もしかして、と思いしゃがみ込んで、くう太と呼んでみた。
すると、犬はがぅと答えた。
「よかった…あなたの帰るところだね」
「くぅぅ…」
「さ、お行き」
「くぅん…」
声のする方へ行くように促すが、犬――くう太は行こうとしない。
むしろ、しゃがみ込んでいる霧花の身体に、身を寄せて、すりすりと頭を押し付ける。
非常に可愛いのだが、どうしたものか。
霧花は、この可愛いくう太に甘えられて、困り果てると同時に、内心嬉しくなっていた。
「くう太!」
心をほんわかさせていると、先ほどくう太を探していた人物が、こちらに気づいたようで、走り寄ってきた。
装束の色をみる限り、彼は先輩の忍たまのようだ。
彼の髪は、灰色でぼさっとしていて、少しくう太に似ている、ような気がした。
「あっ、お前大丈夫だったか!?くう太に噛まれたとかない!?」
「は、はい…それは、大丈夫ですけど…なかなか離れてくれなくて、その…どうしたら…」
「…へぇ、珍しいな!」
「えっ」
「狼って、あんまり人に懐かないんだけど…お前、すごいな!」
お、狼…?
霧花は、彼の言ったことに思わず固まった。
そして、恐る恐るくう太を見た。
確かに、犬にしては大きいし、耳も尖っているし、何より牙が非常に鋭くて大きい。
くう太は、首を傾げながら霧花を見つめ返した。
そして、何を思ったのか、霧花の手をぺろっと舐めた。
「じゃ、行こうか」
「えっ」
「くう太、お前に懐いてるみたいだしさ、ちょっと手伝ってくれないか?もちろん、タダでとは言わないぜ!」
「あ…はい…私でよければ…」
そして、霧花は彼の後についていった。