長編

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歩いている途中、突然彼は振り返って、話しかけてきた。


「そういえば自己紹介してなかったな。俺は、五年ろ組の竹谷八左ヱ門。お前は?」

「えっと、くのいち教室四年の平霧花です。兄が、お世話になって、ます…?」

「平って…もしかして、滝夜叉丸の!?」

「はい、双子の妹です」

「へぇ〜、滝夜叉丸の。そっか、言われてみれば似てるな…あ、でも霧花の方が、礼儀正しいな!」


ニカッと笑った彼、八左ヱ門が、輝いて見えた。

いつも、実家では礼儀作法は滝の方が、ずっと勝っていたから。
私も、滝にかなうとは思っていない。
でも、私は私なりに礼儀作法も、武芸も努力してきた。
それが、滝以外に認められることはなかったけれど。

それを彼は、竹谷先輩は、いとも簡単に私を褒めてくれた。
滝よりも、優れているって、言ってくれた。
滝より優れることがすべてではないのだけれど、あの完璧な兄よりひとつでも、なにか優れていたかったから。

霧花は、今までにないくらい、笑顔でお礼を言った。


「そう言って下さると、すごく嬉しいです…ありがとうございます、竹谷先輩」

「あ――……お、おう!」


八左ヱ門は、その笑顔に心臓を急加速させた。

顔が熱くなって、慌てて前を向く。

そして、いつもよりは小さい声で、霧花に言った。


「その、名字じゃなくて、名前で呼んでくれよ。俺も霧花って呼んでるしさ」

「えっと…はち、先輩?」

「あ、あぁ!それがいいな!うん、ぜひそう呼んでくれよ!」

「わかりました、はち先輩」

「〜っ!」


八左ヱ門は、顔を赤らめながらも、霧花の手を取り飼育小屋へ連れて行った。
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