長編

□4
1ページ/4ページ



滝夜叉丸は、ある問題に頭を抱えていた。

というのは、今日から一週間、くのいち教室の生徒が1人ずつ各委員会に体験というかたちで、参加するらしい。
いつもの学園長の思いつきだ。

滝夜叉丸の所属する体育委員会は、色々な意味でマイペースな委員長に毎日のように振り回されるため、くのたまがついていけるかが心配だった。

くのたまの恨みを買って、苦労するのは滝夜叉丸なのだ。

そんな滝夜叉丸の気持ちなど知らない体育委員会委員長の七松小平太は、今日からくのたまが参加することを非常に楽しみにしていた。

そして、そういう日に限って、授業の進みが早く感じるのだ。

いつの間にか、放課後になっていた。

体育委員会のメンバーは、いつもの集合場所にやってきたが、くのたまは来ていないようだった。

滝夜叉丸は、なるべく大人しいくのたまが来ることを願った。


「…くのたま、まだかなぁ」


小平太が、そうぼやいた時、ようやく少し離れたところから、女の子の声がした。


「お、くれました…!すみませんっ」


それは、よく聞く声だった。

滝夜叉丸は、大人しいくのたまをとは願ったが…妹を願ったわけではない!とさらに頭を抱えた。

そんな滝夜叉丸の心境も知らずに、小平太は走り寄ってきたくのたまに笑いかけた。


「細かいことは、気にするな!それより、今日から一週間よろしくな!私は、体育委員会委員長の六年ろ組、七松小平太だ!」

「あ、はい。えっと、くのいち教室四年の平霧花です…よ、よろしくお願いします」

「あぁ!…って、平?あっ!滝夜叉丸の…姉?」


隣で、滝夜叉丸がずっこける。

霧花は、苦笑いしながら答えた。


「いえ…私は、滝の双子の妹です。兄が、いつもお世話になってます…」

「ふぅん…妹か…じゃあ、霧花って呼ぶからな!私のことは、名前で呼んでいい!」

「は、はい」


今までに、霧花のまわりにいなかった性格のため、少したじたじしながらも、頷いた。


「じゃあ、今日は初めて参加するくのたまがいることだし、裏々山までマラソンしよう!」

「え!!な、七松先輩!それは、霧花にはキツいんじゃ…!」

「何言ってるんだ、滝夜叉丸!体育委員に参加するってことは、それなりに体力があるってことだろう!」

「滝、私は大丈夫。せっかく、七松先…」

「こへーた」

「こ、小平太輩がそう言って下さってるのだから、マラソンするよ」

「しかし、霧花…」


滝夜叉丸は、心配そうに霧花を見つめる。

いつも、小平太のマラソンに着いていくのは、四年生の滝夜叉丸でも、かなりキツいのだ。
そんなことを女の子の霧花がしたら、かなり疲れてしまうだろう。

霧花は、滝夜叉丸の心境を察して、少し嬉しくなった。


「心配してくれてるんだよね、ありがとう。嬉しい」


そういうと、滝夜叉丸は照れたように、別に…と呟いた。

そんな2人を見ていた下級生は、こう言った。


「なんか…滝夜叉丸の妹とは思えないというか…」

「優しそうなんだな」

「綺麗な方だし…」

「三之助!お前、先輩をつけろ!それから…ぐだぐだ」

「あ、霧花先輩。俺、三年ろ組の次屋三之助っす。よろしくお願いします」

「は、はい。よろしくお願いします」


滝夜叉丸の説教を無視して、下級生が次々に自己紹介を始めた。


「僕は、二年は組の時友四郎兵衛です。よろしくお願いしまぁす」

「よろしくお願いします」

「はい!僕は一年は組、皆本金吾です!今日から、よろしくお願いします!」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」

「よーし、じゃあ全員自己紹介したところで、早速裏々々山までマラソンだ!いけいけドンドーン!」

「ちょっ、先輩!々がひとつ増えてます!」

「細かいことは気にするなー!」


小平太が走り出して、続くようにまわりも走り出した。

霧花も、置いていかれないように、金吾の後を着いていくように走り出した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ