長編
□5
1ページ/3ページ
霧花は、わき腹を毒付きの苦無で刺されたあの日から、なにかあったらすぐに見れるようにと、保健室のすぐ横の部屋に寝泊まりすることになった。
そこは、もちろん忍たまの長屋の中なので、外から聞こえる声は、ほとんどが男の子のもので、霧花はそれにより、精神的に不安定だった。
それでも、なんとか精神を保てるのは、朝昼晩と、1日3回、鑪が様子を見に来てくれるからだ。
最初、鑪が来た時には、こっぴどく怒られて、物凄い勢いで泣かれた。
次、こんな無茶したら、部屋に縛り付けてやる、と脅されながら。
それでも、心配してくれたのだと思うと嬉しい。
そう思うのは、鑪には悪いのかもしれない。
さっき、昼ご飯とともに来てくれた鑪は、今は午後の授業を受けているのだろうか。
霧花は、寂しく思いながら、寝るしかないと目をつむる。
だが、今までたくさん寝ていた霧花に、眠気が訪れるはずもなく、仕方なく閉じた目を再び開いた。
布団に仰向けになって、ぼーっと天井を見上げていると、障子がすーっと開いた。
「あ…霧花、起きてたのか」
少し驚いた顔をした八左ヱ門が、部屋に入ってきた。
そして、霧花の近くにストンと腰を下ろした。
午前中は、実技の授業だったのか、頬に少し土が着いていた。
「はち先輩…?」
「な、なんだよ、その顔はー…俺が見舞いに来ちゃ悪いのかよ」
「ち、違いますよ、ただ、授業はないのかなって…」
「あぁ、授業か。今日は、午後からはないんだ」
「なるほど」
上級生にもなると、実践が増えるので、座学のない時間も増える。
そのため、今日は五年ろ組は午後の授業がないのだろう。
「なんやかんやで見舞いに来れなかったけど、霧花が大怪我したって聞いた時、すげぇ心配したんだからな?」
「そ、それは…ご心配かけてしまい、すみませんでした」
霧花の丸い頬をつんつんとつつきながら、八左ヱ門は拗ねたようにこぼした。
罪悪感からか、霧花はそれに抵抗することなく、受け入れる。
「後輩を逃がすためって聞いたけど」
「…彼らに怪我してほしくなくて…」
「その考え方は好きだけど、それで霧花が怪我しちゃだめだろ…」
「…はい…深く反省しています…」
「ははっ…それなら、いいや」
小さく笑って、八左ヱ門は頬をつつくのを止めた。
そして、申し訳なさそうに目をそらす霧花の右手をとると、人差し指にちゅ、と吸い付いたあと、軽く噛んだ。
「へっ?」
「…無茶したお仕置きな」
「は……えっ……え!?」
くすりと意地悪げに笑う八左ヱ門は、すぐに手を解放すると、霧花の頭をひと撫でして、部屋を出て行った。
しばらく、霧花は人差し指を見つめながら、放心していた。