長編

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霧花は、わき腹を毒付きの苦無で刺されたあの日から、なにかあったらすぐに見れるようにと、保健室のすぐ横の部屋に寝泊まりすることになった。

そこは、もちろん忍たまの長屋の中なので、外から聞こえる声は、ほとんどが男の子のもので、霧花はそれにより、精神的に不安定だった。

それでも、なんとか精神を保てるのは、朝昼晩と、1日3回、鑪が様子を見に来てくれるからだ。

最初、鑪が来た時には、こっぴどく怒られて、物凄い勢いで泣かれた。

次、こんな無茶したら、部屋に縛り付けてやる、と脅されながら。

それでも、心配してくれたのだと思うと嬉しい。
そう思うのは、鑪には悪いのかもしれない。

さっき、昼ご飯とともに来てくれた鑪は、今は午後の授業を受けているのだろうか。

霧花は、寂しく思いながら、寝るしかないと目をつむる。
だが、今までたくさん寝ていた霧花に、眠気が訪れるはずもなく、仕方なく閉じた目を再び開いた。

布団に仰向けになって、ぼーっと天井を見上げていると、障子がすーっと開いた。


「あ…霧花、起きてたのか」


少し驚いた顔をした八左ヱ門が、部屋に入ってきた。

そして、霧花の近くにストンと腰を下ろした。
午前中は、実技の授業だったのか、頬に少し土が着いていた。


「はち先輩…?」

「な、なんだよ、その顔はー…俺が見舞いに来ちゃ悪いのかよ」

「ち、違いますよ、ただ、授業はないのかなって…」

「あぁ、授業か。今日は、午後からはないんだ」

「なるほど」


上級生にもなると、実践が増えるので、座学のない時間も増える。

そのため、今日は五年ろ組は午後の授業がないのだろう。


「なんやかんやで見舞いに来れなかったけど、霧花が大怪我したって聞いた時、すげぇ心配したんだからな?」

「そ、それは…ご心配かけてしまい、すみませんでした」


霧花の丸い頬をつんつんとつつきながら、八左ヱ門は拗ねたようにこぼした。

罪悪感からか、霧花はそれに抵抗することなく、受け入れる。


「後輩を逃がすためって聞いたけど」

「…彼らに怪我してほしくなくて…」

「その考え方は好きだけど、それで霧花が怪我しちゃだめだろ…」

「…はい…深く反省しています…」

「ははっ…それなら、いいや」


小さく笑って、八左ヱ門は頬をつつくのを止めた。

そして、申し訳なさそうに目をそらす霧花の右手をとると、人差し指にちゅ、と吸い付いたあと、軽く噛んだ。


「へっ?」

「…無茶したお仕置きな」

「は……えっ……え!?」


くすりと意地悪げに笑う八左ヱ門は、すぐに手を解放すると、霧花の頭をひと撫でして、部屋を出て行った。

しばらく、霧花は人差し指を見つめながら、放心していた。
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