長編

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部屋を出た八左ヱ門は、赤くなる頬を押さえながら、自分の部屋に向かった。

自分は、なんて恥ずかしいことをしたのだろう。

あんなことをして、霧花に変なやつって思われたかも…。

でも、あの時は、なんかしたくなったというか、少し霧花に意地悪してみたくなったというか。

霧花の指、柔らかかったな…。

って、なに考えてんだ!
変態か!

…それにしても、霧花、可愛かったな…。

って、またなに考えてんだ俺は!
馬鹿か!

悶々と考えながら廊下を歩いていたせいか、前をよく見ていなかった八左ヱ門の右肩に誰かがぶつかった。


「あっ、すみませ…あ、綾部…?」

「………竹谷先輩」


ぶつかったのは、ひとつ年下の喜八郎だった。

喜八郎は、冷たい眼差しで、八左ヱ門を見つめた。


「霧花に手を出したら…埋めますよ」

「!?…そっちこそ、手ぇ出したら、許さないからな」

後輩からの突然の宣戦布告に、八左ヱ門は驚きつつも、彼をライバルなのだと理解すると、睨み返した。


「…負けません」

「俺だって」

「2人して楽しそうな話してるな!」


喜八郎と八左ヱ門が、ばちばちと闘志をぶつけ合っていると、後ろから突然割り込みが入った。

2人は、驚いて後ろを見ると、そこにはにこにこ笑う小平太がいた。


「私も!霧花は譲らんぞ!」


まさか彼まで、と2人は心の中で思ったことだろう。

だが、それで諦める2人ではない。


「それは、こっちの台詞です、先輩方」

「七松先輩にも、綾部にも、負けないから」

「なはは!2人は、わかりやすくていいな!」


笑いながらも、凍てつくような眼差しの最年長は、まるで2人を威嚇しているようだった。

小平太は笑いながら、八左ヱ門は睨みながら、そして喜八郎は無表情でばちばちと火花をぶつけ合ったのだった。
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