長編
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今日は、いろは合同の実習だから、心してかからなければ、と伊作は珍しく気合いを入れた。
もしかしたら、こういう話をしながら、霧花と仲良くなれるかもしれないと思ったからだ。
そして実習では、いつも通り不運を発揮しながらも、なんとか合格点をもらった伊作は、いつもより嬉しそうだった。
「伊作、今日はなんかいつもより気合い入ってたな」
同室の食満留三郎が不思議に思ったのか、実習の帰りに尋ねてきた。
その質問に、まわりの同級生も同じことを思っていたのか、伊作の方を見つめてきた。
「え?そうかな…」
「あぁ、確かに。今日の伊作は、なにか浮き足立つというか…」
伊作の隣を歩く立花仙蔵も頷いていた。
「うぅん…まぁ、人って楽しみなことがあると、自然と頑張れるというか…みんなも、そういうことあるでしょ?」
「なら、伊作はなにか楽しみなことがあるのか?」
「えっ、それは…まぁ…って、こんなことは別に聞く必要ないだろう!?」
「なんだよー、水臭いなぁ。伊作、好きな人でも出来たのか?」
からかった風に留三郎が訊くと、伊作はまるでりんごのように顔を赤くした。
そのあからさまな反応に、まわりは驚いたように、伊作をじっと見た。
「なっ、なんだよ!そんなに驚く!?」
「いやぁ…まさか、そうだとは…」
「み、みんなだって、少しは経験あるだろ!?」
まわりの生暖かい視線に耐えられなくなった伊作は、怒鳴るようにして言った。
「いや…ねぇけど」
「私も右に同じだ」
「おれも」
「もそ…」
「逆になんもないの!?あっ、小平太は!?」
4人が答えるなか、何故かいつも元気な小平太は何も言わなかったので、伊作は彼にも訊いた。
期待の眼差しで伊作は彼を見つめると、小平太は自分を指差しながら首を傾げた。
「私?」
「うん、そう。小平太はどうなの?」
もったいぶるような彼の緩慢な口調に、まわりも気になりだした。
そうだなぁと考え込む彼に、まわりは期待しつつ、いないのではと内心思っていた。
だが、その考えは、彼の答えによって壊された。
「好きな子、私もいるぞ」
「だよなぁ…あの小平太にいるわけ、って、はぁあ!?」
「なな、なにぃ!?」
「あの小平太に…!?」
「もそ……!?」
「バレーと鍛錬にしか興味を持たない、あの小平太に好きな人!?」
「…なんか、みんな伊作の時より反応酷くないか?」
いじけたように小平太は、小石を蹴った。
まわりは、小平太の好きな人をそれぞれ想像してみたが、まったく浮かばなかった。
「なぁなぁ、小平太の好きな奴ってどんな感じの子なんだ?」
「んー…可愛い子だな、ちっさくて、おどおどしてるんだけど、変なところで肝が据わってるんだよなぁ」
言葉で説明されても、まったく想像のつかない5人は(文次郎はあまり乗り気ではないが)、その子に会いたくなった。
「見てみたいなぁ、小平太の好きな子」
「ん?いいけど、伊作の好きな子も見てみたい」
「えっ」
「おぉ!そうだな!どっちも気になるな!」
ということで話がまとまり、早速帰ったらその好きな子のところへ行くことにした。
どちらの好きな子も、同一人物ということに気づかずに。