長編
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「霧花っ、なにしてんの!寝てなきゃ駄目でしょ!?」
鑪は、怒ったように言って、持ってきた夕飯を部屋のすみに置くと、霧花を布団に戻した。
そして、置いた夕飯を取ってくると、霧花の枕元に置き直した。
「…で、なにしてたの?まさか、脱走しようとしたんじゃないでしょうね」
「……ごめんね、たたら…わたし、ほんとに…なにやってんだろ…」
「…霧花…なにかあったの?理由もなく、こんなことしないでしょう」
霧花は、鑪の優しい目に、ため込んでいた気持ちを吐き出した。
「あのね…さみしく、なっちゃったの…」
「さみしく?」
「うん…朝おきて、たたらがとなりに、いなくて…昼間も…夜、寝るときも…たたらが…いないの…」
「…そうね」
「それで、こわい、夢をみるの……」
霧花は、鑪の手を握った。
「男が…あの日の、男が、きて…わたしを…追いかけて、くるの……わたし…にげきれ、なくて…そのまま……」
「霧花……」
「おきたとき、男がいるんじゃないかって…こわくなって…でも、言えなくて……ごめんね、たたら…ちょっと、わがまま…言ってもいい…?」
「いいよ」
こらえていた涙が、ポロリと落ちて、霧花は言った。
「たたらがいなくて、さみしい…不安、なの…たたらのいない部屋が、こわい、の……」
「…気づいてあげられなくて、ごめんね、霧花」
「たたら…さみしいよ……おんなじ部屋で、寝たいよ…」
「…わかった。私、今日から、ここで寝る」
「…いいの?」
「霧花に、こんなこと言われたら…叶えてあげたいから」
涙を次から次へと流す霧花を抱き締めて、鑪は照れくさそうに呟いた。
すると、霧花は嬉しさで、鑪の胸に顔をうずめた。
そして、ぐりぐりと頭を押し付けて、また泣いた。
「たたら…ありがとう…やっぱり、わたし…たたらのこと、すきだな…」
「私だって、これでも霧花のこと、好きだからね」
「うん…」
「さ、霧花…ご飯食べちゃいましょ」
「うん…!」
その時の霧花は、もう悲しげではなかった。
むしろ、幸せそうに笑っていた。