長編
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今日は、忍術学園は休日のため、どの組も授業はない。
なので、部屋にひとりでこもりながら霧花は借りた本を読んで、唸っていた。
というのも、入院している際に借りたお菓子作りの本を見て、何を作ろうか悩んでいるのだ。
お菓子作りは霧花の趣味で、よく作っては鑪と一緒に食べている。
無難に団子や饅頭でもいいが、たまには違うものも作ってみたい。
本をぱらぱらと捲って、考えに浸っている時、とあるページでその手が止まった。
「…これ、作ってみようかな…」
霧花は、作ったことのないそれに興味を持ち、ひとり頷いた。
休日になると、滝夜叉丸は密かに戦輪の練習をする。
今は、少し休憩のために近くの木陰に腰掛けていた。
すると、一年は組のお馴染みの3人がなにやら楽しそうに話しながら歩いてきたので、すかさず捕まえた。
「やぁ、乱太郎にきり丸にしんべヱじゃないか。こんなところで、会うなんて奇遇だねぇ」
「げっ!滝夜叉丸先輩…」
「また面倒なのに、見つかったなぁ…」
「ん!?乱太郎、きり丸、なんだって?私の話が聞きたい?…仕方ない、どうしてもと言うならこの滝夜叉丸、話してあげよう…まず、何故、私がこんなに…ぐだぐだ」
「…始まっちゃった」
「なぁ、話に夢中になってる今のうちに、逃げようぜ」
「そうだね」
乱太郎ときり丸が、こそっと話して、その場から離れようとした時、黙っていたしんべヱが滝夜叉丸に話しかけた。
「ねぇねぇ、滝夜叉丸先輩」
「ん?なんだね、しんべヱ」
「あっ、馬鹿っ、しんべヱ!」
乱太郎ときり丸は、慌てるがもう遅かった。
滝夜叉丸は、自分の話を止めて、しんべヱたち3人を見つめた。
「この前、食堂で滝夜叉丸先輩と仲良しだったくのたまの先輩って、誰ですかぁ?」
しんべヱの思わぬ質問に、滝夜叉丸は一瞬驚くが、すぐにいつもの調子で話し始めた。
「あいつは、私の双子の妹だ。しっかりしていて、礼儀正しく、料理もうまい!完璧な妹だ!」
「えー?滝夜叉丸先輩の妹なら、自慢話ばっかりするんじゃないスかぁ?」
「なんだと!?」
滝夜叉丸は、きり丸に拳骨をお見舞いした。
「きりちゃん…一言余計だったね…」
「滝夜叉丸先輩!お料理食べたいです!」
「しんべヱはしんべヱで、のんきなんだから…」
きり丸と滝夜叉丸が睨み合って、乱太郎がそれをなだめた。
手の掛かる同室と先輩だな、とふと思った。
それを言ったら、きり丸に怒られそうだけれど。
すると、突然滝夜叉丸は、何かに気づいたようで、きり丸から目を離した。
そして、矢羽根と呼ばれる会話方法で誰かと話をし始めて、すぐに乱太郎たちに背を向けて、歩き出した。
「すまないが…用事が出来てしまったから、ここで失礼するとしよう!では、また!」
髪をわざとらしくなびかせて去っていく滝夜叉丸に、3人はげんなりしたが、突然去っていくことが気になったのか、彼らは同時に頷いた。
そして、こそこそと滝夜叉丸のあとをついていくことにしたのだった。