短編
□だいすき、今は言えない
1ページ/1ページ
「ところで三山はさ、なんだかんだで私たちとご飯食べてくれるけど…もしかして目当ての人でもいるの?」
お昼ご飯を食べているとき、伊作が唐突に言い出した。
思わずぽかんと口を開けて訝しげに伊作を見る。
確かに目当てはいるけど…
何故唐突に…
ま、まさか善法寺先輩、ほんとは記憶があるんじゃ…
「いさくせんぱい」
試しにそう呼んでみるが彼女は不思議そうに首を傾げた。
「え?誰だって?」
「いやなんでもないです目当てなんていません」
「そっかぁ…あっ、じゃあ私たち6人のなかだったら、誰が好み?」
なんでこんな恋ばな好きなの?
女の子だから?
女の子だからなの?
というかすごい困る質問…
答えに困っていると、視線を感じてそちらを見ると小平が詩紀をじっと見つめていた。
なにか期待するような、でも不安そうな視線。
それに気づいたとき、詩紀は正直に言ってもいいかと思い口を開く。
「そうですね、この6人のなかで言うなら七松先輩ですかね」
「へぇ!どんなところが好みなの?」
「え、うーんと…まず目が丸くて可愛いところ、明るいところ、細かいことは気にしないところ、髪質も好みだし、肌も綺麗で声も可愛い、あとはー…」
「いやいや待って、それ好みというか好きなんじゃないの?」
「えっ………………まさかぁ」
しまった、正直に言いすぎた。
ドン引きされていないかと小平をちらりと盗み見ると、彼女は顔を真っ赤にさせてうつむいていた。
引かれてはいなさそうな反応なので、詩紀はほっと息を吐く。
すると仙火が詩紀の肩に腕を置いて、少しバカにしたように鼻で笑う。
「伊作、こいつの好みは偏ってるんだ」
「それがたまたま小平とマッチしたってこと?」
「そのようだな、それに、なによりこいつにはもうすでに心に決めた相手がいる」
「えっ」
それを聞いてまわりは驚いたように声をあげたが、一番驚いているのは小平だった。
そして、ショックを受けたように小平は顔を青ざめさせる。
「そ、うなのか…」
「……まぁ、そいつは詩紀のことなど覚えていないらしいがな」
「ちょ、仙蔵先輩…」
「事実だろう」
「…そ、うですけど…」
なにも反論できずに口をつぐむと、小平が詩紀の腕に抱きついて必死な様子で見上げてきた。
「そ、そんな人、諦めちゃえばいいっ」
「えっ」
「三山にはっ…もっと三山を想ってくれる人が…いるはずだよ!だからっ…」
小平が詩紀を思ってそう言ってくれるのは嬉しかった。
だけど、詩紀はそっと小平の口を指で塞ぐ。
「…七松先輩、ありがとうございます。でも…俺には諦めるなんてできないです。ずっと昔から…その人だけを想ってきたから…」
「そ…か…」
小平は悲しそうな表情で詩紀を見つめると、詩紀はとても愛しい人を見るような眼差しで小平を見つめ返した。
その眼差しの意味が、小平にはまだわからなかった。
だいすき、今は言えない
でも、いつか貴方に伝えたいのです。
続く