短編
□しんだはずの気持ちは、まだ
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高校に入学して数ヶ月経った。
季節は秋。
もうすぐで文化祭が開催される。
くのたまの時も文化祭があったなぁ、と感傷に浸っていた詩紀は、クラスメートの呼び声で我に返った。
「三山くんは?」
「えっ」
「うちのクラスは演劇でいいの?三山くんだけ、どこにも手をあげてなかったけど」
「あ、あぁ、うん、演劇がいいです」
喫茶店とお化け屋敷と演劇で意見がわかれていたらしい。
どれも楽しそうなので詩紀は頷く。
「じゃあ、次はなんの劇にするかですが──」
話し合いの結果、シンデレラになった。
男子的にはあまり興味のない題材のようだが、元女子である詩紀にとってはかなり興味のある題材。
この世界に生まれて何度か話を聞いたことがあるが、いかにも女の子が憧れるストーリーだ。
そして役決めで、シンデレラはすんなり決まったのだが王子がなかなか決まらなかった。
男子が誰もやりたがらないのだ。
詩紀はやってもいいとは思うのだが、自分が王子役なんかしてもいいのだろうかという遠慮があった。
「ちょっとー、王子がいなきゃシンデレラにならないよ!男子だけで話し合ってきて!」
委員長がそう言うと、男子が面倒くさそうに教室の隅に集まる。
そしてひとりが口を開いた。
「…どうする?王子役なんてまじで似合うやつがやんねぇとただのコスプレだぜ?」
「ほんとそれな」
「公開処刑だわ」
ようは誰もやりたくないということだった。
見かねた詩紀が小さく手をあげる。
「お、俺…やってもいいなら、いいかな」
「えっ、まじ?」
「引き受けてくれんの?」
「だって王子様なんて、なかなかなれないだろうから…ちょっとやってみたい」
「頼む!」
「ありがとう三山!」
「お前なら顔綺麗だし、ぜってぇ似合う!」
ということで、詩紀は王子役になった。
「三山くん、よろしくね!」
シンデレラ役の女の子が声をかけてきた。
詩紀は、ふっと自然に笑みを浮かべて返す。
「うん、よろしく。俺、演劇とかしたことないから…変なとこあったら教えてね」
「う、うん!でも、きっと三山くんなら大丈夫だよ!」
「そうかな…そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとね」
思わず女言葉が出ないように気を付けながら話していると、女の子は顔を赤らめて小さく頷いた。
ん?と首を傾げると、まわりの温かい視線を感じてさらに疑問符を頭に浮かべていた。
そして文化祭まで2週間をきった頃、演劇の練習の休憩中に詩紀のもとに仙火がやってきた。
「詩紀、話がある、今暇だな?」
「え」
「来い」
逆らえなくて詩紀はクラスメートに謝って仙火に着いていく。
そして連れてこられたのは風紀委員会の教室だった。
なぜこんなところに…?
そう思っているのが伝わったのか、仙火は理由を話してくれた。
「うちの学校では毎年、文化祭にミスコンを開催する」
「はぁ」
「お前、それに出場しろ」
「え!でもミスコンって女の子だけじゃ…」
「毎年女子じゃないやつも出ている、それに私がお前を完璧に女子に仕立ててやる、だから大丈夫だ」
なにも大丈夫じゃないよ
なに考えてるの!?
「それが、小平太の記憶を取り戻す最大のチャンスだ」
「え…」
「お前は、くのたまの格好でミスコンに出てもらうからな」
「ええ!?あの格好で!?」
「そのための地毛だろうに」
「いや決してそのための髪じゃないです」
「くのたまの格好なら、小平太も昔を思い出すかもな」
なるほど…
その発想はなかった
「わ、わかりました!ミスコン、出ます!」
「それでいい。ところで、お前のクラスは…演劇だったな。何時からだ」
「えーっと…午前10時からです」
「ならば大丈夫だな、ミスコンは午後2時からだ」
仙火は不敵に笑う。
「お前を優勝させてやろう、楽しみにしていろ」