守りたい 番外編
□sexual panic!
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「しっかし、よくもまぁこんなに集めたもんだな……って、ちょっと待て。優梨お前、こんなモンどっから調達した?」
幽助が、至極真っ当な疑問を口にする。
そうだ。これはどれも魔界の品物。
出版コードによる規制もモザイク加工によるぼやかしも無い。剥き出しの野性味を帯びた、グロテスクな性行為の写真集。
おそらく人間界のエロ本すら見た事も無いであろう優梨に、これが耐えられる訳がない。何の耐性も無いのだから。
ましてそれを購入する術など、彼女にあろう筈が無いのだ。
(誰かが一枚噛んでるな)
すぐにその結論に辿り着いた。
蔵馬は床に散乱する本の中から足元に落ちていた一冊を拾い上げ、駆けつけた全員に表紙を見せつける。
「……さて、誰の仕業かな?」
努めて穏やかな笑顔を作ったつもりだが、逆に恐怖を煽る効果があった。皆が皆、引きつった表情へと変わっていく。
「オ、オイラじゃないよ! いくらなんでもそんなの買ってこれないし」
「オレもさすがに……いたいけな嬢ちゃんにこんなモンは渡せねェよな〜」
真っ先に否定したのは鈴駒と酎だ。全員を等しく容疑者としたいところだが、実は蔵馬の中でこの二人は既に除外されていた。
妖怪としては幼い部類に属する鈴駒にとってコレは刺激的すぎるし、酎はオカズより酒の肴優先派である。
「あ、あのさ〜……ソレ、私が自分で買って……」
「キミがこんな物を売っている市場を知っている筈がないし、そもそも自分で買いに行けるとも思わない。ヘタな嘘はやめることだ。次」
「お〜〜オ、オレでもねぇべ!」
「オレも心当たりは無い」
魔忍の二人が揃って否認。
魔界の影で生きてきた彼らなら、このテの物を売っている場所や商人にも通じているだろう。
だが、陣・凍矢両名とも犯行(?)の可能性は低い。二人の性格上、いくら優梨に頼まれたのだしてもこのような事をするとは考えにくいからだ。
「ねぇ、やめようよ。こんな犯人探しみたいなコト」
「それじゃオレの気が済まない。次」
睨みを利かせた正面ではなく、すぐ隣から声が上がる。
「……言っとくけどオレも違うからな」
「ああ、それはわかってる」
おそらく幽助もシロだ。
こういった話題で優梨をからかう事はあっても、こんなタチの悪い事はしない。なにより、彼は優梨に"そういう方面"に慣れてほしくないと思っている。
――となると、残るは……
「オレは知らんし、どうでもいい」
「オ、オ、オレも……し、知らん、ぞ!」
「そうか…………鈴木、一歩前へ出ろ」
「ズガァァァァン! な、何故わかった!?」
「いや、今のはわかりやすすぎだろーが」
呆れた幽助がため息混じりに言い放ち、他の五人も白い目を向ける。
鈴木は慌てふためいた様子で、『優梨がどうしてもと言うから』とか『オレは純粋な気持ちで協力しただけだ』などと言い訳を並べるが、それは功を成さなかった。
たった一人、優梨だけが彼を庇う。
「ちょっとみんなやめてったら! ホントに私が頼んだんだよ」
「だとしても、普通はやらないがな」
「オイラなら断るね」
「んだべ。そんな事したら蔵馬に殺されるってわかりそうなもんだ」
「命は惜しいだろ〜」
「お、お前ら薄情だぞ!」
口々に責め立てられ、鈴木はもはや半泣き状態だ。
しかし一切の容赦を与えぬ蔵馬の冷徹な眼差しが彼を射抜く。
「鈴木。華厳裂斬肢と樹霊妖斬拳、どちらが良いか決めておけ。あとでたっぷり味わわせてやる」
「かっ、勘弁してくれ!」
「ダメだ。とりあえず、全員でそいつをつまみ出して拘束しておけ。オレは優梨と二人きりで話がしたい」
「「「ラジャー!」」」
「おい〜〜〜〜!!」
癌陀羅で根付いた上下関係は未だ健在だ。統率の取れた機敏な動きで鈴木は連れ出される。
「……ほどほどにしろよ」
最後に残った幽助もそれだけ言い残すと静かに部屋を去り、蔵馬と優梨の間には何とも言えない雰囲気の沈黙が漂っていた。