守りたい 番外編


□sexual panic!
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「何故こんな物を?」

「いや、だから……」

「勉強、とか言ったっけ? オレは『そのままのキミでいい』って言ったのに?」

反省の意を示す為なのか、優梨は床に正座した。蔵馬もそれに合わせて床に座る。
幸い、この部屋には粗末でない絨毯が引かれている。平素から靴で出入りしているので清潔とは言い難いが、それでも冷たい石造りの床よりはいくらかマシだった。

「付け焼き刃の知識を得る為だけにこんな物を読む必要はないだろう」

「ちょっ、見せないでよバカ!」

パラパラとめくった中で、一番過激と思われるページを開いて優梨に突きつける。彼女は両腕を伸ばして手を大きく広げ、可能な限り視界を遮った。

「この程度の本で悲鳴を上げてる優梨に、こういう勉強はまだ早い」

「……秀ちゃんにとっては『この程度』なんだ」

優梨の周囲にどんよりとした空気が立ち込める。今のは失敗だったかもしれない。
なんとかフォローしようと蔵馬は頭を働かせるが、これといったものが思い浮かばない。何故ならそれこそが純然たる事実なのだから。

「私だって、それなりにちゃんと考えてやってるんだよ」

「何をどう考えたらこんな行動になるんだか」

「だから、さ……ほ、本番はまだムリそうだから、その日に備えてイロイロと……」

「しなくていい。その時が来たら、オレがいくらでも教えてあげるから」

「それがイヤだから頑張ってるんでしょ!」

バン、と床を叩きながら優梨が反論してくる。真っ赤な顔で、目をぎらぎらさせて。

「今のままでそんな事になったら私、確実に秀ちゃんの掌で転がされるじゃない!? そんなの情けないし…………恥ずかしいし」

後半は語尾が尻すぼみだ。どうやら彼女なりに真剣に考えた結果だというのは、本当らしい。
暴走した優梨は止まらない。そう、誰にも止められない。
ならば頭ごなしに非難するより一つ一つ諭してやるのが吉か。
蔵馬は切り口を変える事にした。この場面であえて冷静になり、あえて笑みを浮かべてみせる。

「それで、読んだ感想は?」

「……、…………」

優梨がポツリと何かを呟いた。
だが蔵馬の超人的聴力をもってしても、それが聞き取れない。相当の恥じらいだ。

(こんな無免疫で、よりによってこんな物を……)

今日、この時に気づいたのは幸いだった。ヘンな知識が付いて手遅れにでもなっていたら……笑えない。

「優梨、言ってみなよ。読んでどう思った? 興奮した? シたくなった? それとも……嫌悪感?」

「……の、……ない」

「え?」

「あんなの、入らない〜〜!」

「…………は?」

一瞬、何の事を言っているのかわからなかった。けれどすぐに理解する。
優梨は蔵馬が手にした物とは違う本を指差し、ギュッと唇を噛みしめていた。
そして示された本の開きっぱなしになったページには、まさに男女が絡み合っている瞬間――繋がっている"その部分"を写した画が掲載されていたのだ。

「あんなの無理! 絶対無理!! 入るワケないよ体壊れちゃうよヘタしたら死んじゃうよ〜!!」

「優梨落ち着いて。大丈夫、死なないから。女の体は男の体を受け入れられるように出来てるんだから」

「うぁ〜〜〜ウソだウソだ! だって、だって……」

若干潤んだ瞳を瞬かせ、もう一度濡れ場の写真を確認し、

「おっきすぎるよやっぱり無理だぁぁぁ!」

「……優梨……」

蔵馬は頭を抱える。
無邪気故とはいえ、明け透けすぎやしないだろうか。先程まであんなにしおれていたというのに、今や混乱で爆弾発言を連発している。
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