この蒼空(そら)の彼方、響け金糸雀の唄


□第6話
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 幽助が真莉亜を伴ってやって来たのは、ゲームセンターだった。

「“デェト”だなんて言うから何処へ行くのかと思えば……」
「やっぱサボりの定番はここだろ」

 本当は行く頻度だけならパチンコ店の方が多いのだが、さすがに芸能関係者をそんな所へ連れ込むのは気が咎めたのだ。万一おかしな輩に嗅ぎ付けられればスキャンダルにもなりかねない。

(その点、ゲーセンなら大した問題にゃならねーだろ)

 学校をサボって遊んでいる時点で充分“大した問題”なのだが、幽助にはそうした認識は無かった。ゲーセンならパチンコよりはマシ。その程度の感覚だ。

「ゲームセンターなんて何年ぶりかしら」
「入ろうぜ」
「制服で?」
「どうせ誰も気にしねぇよ」

 少なくとも、こんな時間からこんな所に入り浸っている連中は。何故ならここに居る奴らは皆同類なのだから。
 そう割り切って店内の自販機で両替をする。

「アンタどれやる? あ、格ゲー出来んなら対戦しようぜ」
「ゲームはやったことがないからわからないわ」
「は? だって来たことあんだろ? さっきそう言ったじゃねぇか」
「来たことはあるけどやったことは無いの。いつも見てただけだったから」
「マジかよ。そんな奴いんの?」
「いるわ、ここに」
「左様でごぜーますか」

 半ば呆れ気味に応えながら、幽助は両替機からじゃらじゃらと出てきた小銭を掴んでポケットに突っ込んだ。
 真莉亜は久々の遊戯場を見渡している。彼女のそうした振る舞いに、幽助は妙な新鮮さと面白味を感じた。

「よし、ならまずは“龍魂伝説”だな!」
「龍魂伝説?」
「そ。今のトレンドはこれだぜ」

 ぽんぽんとアーケードゲーム機の縁を叩き、幽助はそれが最新の格闘ものであることを説明してやる。実はまだクリアしていないので、今日こそはエンディングまで行ってやろうと意気込んでここへ来たのだった。
 画面の真ん前に座り、硬貨を投入していざ勝負!
 そこまでは良かった、のだが……

「即K.O.とはね」
「…………」
「ヘタの横好きというやつかしら」
「うっせー! これは難易度高ェんだよ!」

 本当のことなのに言い訳の常套句っぽいのは負け犬の性か。格好のつかない気まずさに、幽助は唸りを上げるしかなかった。

「ちょっと代わって」
「なんだ、出来んのか?」
「やり方なんて見てればわかるわ」
「バカ言え、そんな単純なモンじゃねーよ」
「貴方に出来るなら充分単純よ」
「このヤロー……」
「野郎じゃないわ。いいから見てなさい」

 幽助を退かせて席についた真莉亜は、スティックコントローラーに手を掛ける。ファイト、の音声と共にしなやかな手指が素早い動きを見せた。

「んな……っ」

 とても素人とは思えないスティックさばきは幽助の目を丸くさせる。技を取り入れるタイミングも見事なもので、全て綺麗に決まっていった。

「マジかよ……」

 試合時間、わずかに十三秒。“You Win”の文字が画面に出るまでの間、幽助はモニターに釘付けになっていた。

「初陣としては上々ね」
「どこが初心者だ、テメェやったこと無いなんてぜってーウソだろ!」
「つかないわよ、そんなつまらないウソ」
「ぐぬぬ……えぇい代われッ」
「またやるの?」
「この格ゲー王浦飯幽助が、このまま引き下がれっか!」
「どこが王なのよ」
「この辺りじゃ対戦負け知らずなんだぞオレは!」
「レベルが低い街なのね」
「こんにゃろ〜〜」
「だから野郎じゃないわ」
「うっせぇ、いいから見てろ! ぜってークリアしちゃる!」

 真莉亜の気晴らしに連れてきた筈が、幽助はもう彼女への対抗心で燃えている。格闘ゲーム一筋の男魂に火が付いた。

 そんな幽助に対して当の真莉亜はといえば、

「……無駄遣いの極みね」

 湯水の如く投じられる硬貨の散財ぶりに、ただただ嘆くばかりだった。
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