神の子ども達


□第7話
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 目が覚めて一番に目に入ったのは、見たことも無い天井だった。淡い煉瓦調のそれはディアドラの小屋のものよりもずっと高く、ここは何処だったろうかとルミナスはぼんやり考えてみる。
 しかし答えに見当をつけるより先に、今度は思わぬ顔が目に飛び込んできた。

「あ、起きたねルミナス。気分はどう?」
「……シャナン?」

 流れる黒髪が遮光の役割を果たし、ルミナスの眼に色づきを取り戻させる。こちらを覗き込んでいるその人物の輪郭が徐々にはっきりしていき、声だけで判断して名を呼んだ相手はやはりマーファで知り合った少年なのだと認識した。
 半身を起こすと、自分がベッドに寝かされていたことがわかる。他にもいくつか寝床が並んでおり、微かに鼻をつくのは消毒薬の匂い。
 どうやら医務室に運ばれたらしい。
 シャナンはルミナスを看ていてくれて、部屋の隅で簡易椅子に腰掛けているアイラもまたそれに付き添っていてくれたのだろう。

「ルミナス? まだどっか痛い?」
「いえ……もう何ともありません。ありがとう、ございます」
「どういたしまして。って言っても、僕は何もしてないけどね」

 シグルドがここまで運んでくれたんだよ、と言いながら差し出してくれた水を受け取り、ルミナスはぐいっと呷る。喉が潤って初めて気づいたが、カラカラだったようだ。
 緊迫した戦況と消耗した魔力から来るものだろう。そう、あの状況では無理からぬこと。
 ……状況?

「サンディマは……バトゥ国王は!?」

 弾かれたように身を乗り出し、事の顛末についての説明を求める。
 あの後いったいどうなった? サンディマに掛けたサイレスが解けて、闇魔法を放たれて、それを光魔法で受け止めて、目が眩んで……それからは?
 思い出せない頭に手をやりながら、ルミナスはシャナンに問い掛けの視線を送った。

「サンディマは死んだ」

 しかし応えたのはアイラの方だった。シャナンが困ったような顔をしていることから、もしかしたら彼は成り行きについて詳しく聞かされていなかったのかもしれない。

「お前の魔法が致命傷になったそうだ。最後にシグルド公子の剣で貫かれ、完全に息絶えた」
「そうですか」

 考えてみれば当然か。城を制圧したからこそ、こうして医務室のベッドで寝ていられたのだ。シグルド軍が勝利した故の恩恵なのだから。
 では、もう一人は?

「バトゥ国王も亡くなられたよ」

 ベッド付近まで歩み寄ったアイラが、コップに新しい水を注ぎながら教えてくれる。

「闇魔法に侵され、心身共に衰弱されておられたようだ。エーディン公女が懸命に治療されていたが、既に手の施しようが無かったらしい」
「……そう、ですか」

 こちらは薄々そうではないかと思っていた。サンディマに捕らわれた彼からは、ほとんどエーギル――即ち生命エネルギーが感じられなかったのだ。
 つまり彼の生命は、あの時に尽きる宿命だった。わかってはいてもやりきれないものだと、ルミナスの心を影が覆う。
 だが落ち込んでばかりもいられまいと顔を上げれば、こちらを訝しげに見ているアイラと目が合った。

「あの、何か?」
「いや……やけに落ち着いているな」
「え?」
「お前くらいの年の子どもが、それほどあっさり人の死を受け入れられるものなのかと思ってな」

 言われてみれば妙に冷静だ。“声”に突き動かされて従った結果とはいえ、こんなにも淡泊でいられるものだろうか。
 やはり自分は……

「私、普通じゃないみたいです」
「そういう意味で言った訳じゃない」
「でも……」
「お前は疲れているんだ。もう少し休んでいるといい。シャナン、ルミナスに付いててあげて。私は彼女の意識が戻ったことをシグルド公子に知らせてくる」
「うん、わかったよ」

 女戦士として厳しい表情になりがちなアイラだが、基本子どもには優しい。彼女の本来持っている母性がそうさせるのだろう。
 労りの言葉を残して出ていくアイラを見てルミナスは『母親がいたらこんな感じだろうか』と、少しばかり失礼なことを思ってしまった。
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