守りたい 第四部


□第96話
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【Girl's party!】



「かっっっっわいぃ〜〜〜〜! すっごく可愛いよ、ミナミちゃん!!」

 ……どうしてこうなったのか、誰か教えてくれ。
 室内ではしゃぎ立てる女性陣を前に、桑原和真は項垂れた。
 否、自分より遥かにどんより雲を背負っている男――ミナミちゃんを見て、同情と共に落ち込みを覚えたというのが正しいか。



 事の始まりは二日前に遡る。
 螢子の学校で起きたという幽霊騒ぎの事態収拾に、幽助が駆り出されたのだ。
 霊界探偵を務めた過去を活かして屋台と兼任で始めた商売に、幼なじみが目を付けた。恋愛沙汰が白紙に戻っても二人の関係性は変わらないのだな、などと軽い気持ちで高みの見物をしていたのが運の尽き。
 その依頼は思うより厄介なものだったらしく、困った幽助が蔵馬に助けを求めたのだ。
 それだけなら良かったのだが。

『蔵馬、オメーも来てくれよ』

 一人女物の制服を着せられて女子校へ連れられた幽助が、仲間を増やさんと(建前上は事件解決の為だが)そう持ち掛けた。これに乗っかったのが蔵馬の恋人である筈の優梨だったのだ。

『制服は螢子ちゃんが先輩から借りてくれるんだって。せっかくだからメイクもしてもらおうと思うんだよ! ね、静流さん居る? 明日カズくん家行くからさ、ってか連れてくからさ。是非ともよろしくお願いしたいワケよ。OK?』

 そんなノリノリの電話が掛かってきたのが昨日の出来事。
 彼氏に女装させるのがそんなに楽しいのか。話を聞いて『腕が鳴るわ』と意気揚々な姉も含め、女という生き物は本当にわからんと桑原は唖然となったものだ。



 そして今。
 第一女子の制服を着た蔵馬がむすっとした表情で静流に髪を結われているなう、である。優梨をはじめとして螢子に何故か居るぼたん、あの雪菜までもがきゃあきゃあと声を上げながら彼を取り囲んでいる。

「さっすが蔵馬! 全然違和感無いさね」
「ホント……なんなら女として敗北を感じるくらいだわ」
「とてもお似合いですよ、蔵馬さん」

「…………」

 これが自分や幽助辺りの言葉なら手酷い言い返しを喰らったところだろうが、女性相手にそれをしない蔵馬はただ黙して黄色い嵐に耐えていた。かなり気の毒だと桑原は思う。
 が、顔の良い奴の宿命だとも思うのだ。至近距離で雪菜に見つめられている蔵馬が正直羨ましくもあるこの事実を、どう受け止めたものか。悩ましいところだ。

「なにじろじろ見てるんですか桑原くん?」

「い、やぁ……見てねぇ、よ?」

 男の娘にあるまじき凄みで睨まれ、桑原は全力で視線を逸らす。
 ぶっちゃけ怖い。マジで。
 なんなんだよコイツ、そんなに嫌なら断りゃいいだろ。彼女の頼みに勝てないからってオレに当たるな。

「ミナミちゃん、言葉遣い悪いよ」

「……まさか今になってその呼び名が使われることになるとは思わなかったよ」

「世の中何が起きるかわかんないモンなんだって」

 蔵馬の女装姿を見た優梨は、迷わず“ミナミちゃん”と命名した。二人の間にその名を巡るどんないきさつがあったのかは知らないが、とりあえず蔵馬にとって宜しくない思い出であるのは確かだろう。
 幽助などは『源氏名みてぇ』とけらけら笑っている。後が怖い桑原は堪えていた。一緒になって爆笑してやれたらどれだけ楽か。だがやらない。怖いから。

 非凡で平和。賑やかで穏やか。
 とある平日の午後、桑原家の一室ではそんな光景が繰り広げられていたのだった。



 その後、静流がこっそり撮っていた写真を巡ってまたひと悶着起きるのだが、それはまた別の話である。
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