守りたい 第四部


□第103話
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 …………寒い。



 ここ、どこ? 真っ暗で何も見えない。
 私……どうなったんだっけ?

 ――……あれ、おかしいな。からだ動かないや。金縛り?



 …………違う。
 そうだ、思い出した。私、あの人に捕まったんだ。
 死んだのかな?

 ――いや。死んでたら霊界案内人の誰かが迎えに来る筈だし、霊体になってるなら寒さなんて感じる筈がない。
 私、まだ生きてる。……今のところは。

 でも状況がわからない。
 なんで意識だけちゃんとしてるんだろう?

「波長に乱れが見られるな」

 この声は、あの人だ。私を憎み、捕らえて連れ去ったあの人。

「意識はそちらにあるのか。ほう……このような儚い存在となっても、自我というのは意外と消えぬものなのだな」

 なに? 何の話?

「だがもはや中身に用は無い。器さえあれば、目的は果たせるのだからな」

 なかみ……うつわ……何を言ってるの? 『用は無い』って事は、やっぱり私……殺される、の?

「余は警告した筈だ。殺しておかねば後悔する、とな」

 確かにされた。
 ああ……私、ほんとに甘かったんだ。バカだなぁ……でも、これが“私”なんだよね。

 秀ちゃんはこんなバカな私を好きになってくれた……と、思ってたんだけど。
 『愛していない』か……キツかったな。
 もうきっと、助けにも来てくれないよね。……愛してないんだもんね。
 よりによってあれが最後になるなんて。

 せめて今日まで知らないままだったら良かったのに。そしたら幸せな夢を見ていられたのに……

「脆いものだな。たかが狐一匹の変化でこのザマとは」

 私、弱くなったのかもね。守ってもらうことに慣れ始めちゃってたんだ。
 強く在らなきゃいけなかったのに。私にも守りたいもの、あったのに。

「憐れなことよ。あの狐も、裏切りの末裔の小娘も、そしてそなたも……」

 そうだ、雛! それに螢子ちゃんも。
 ちゃんと無事に逃げてくれたかな……それだけでも、知りたい。

 ……それに……

「あの女はしくじったか。ならばじきに奴らも来よう」

 それに、秀ちゃん。…………会いたい。会いたいよ。やっぱり私、秀ちゃんが好き。
 私を愛してくれてなくても、傍にいたい。好きでい続けたい。
 ……それさえも、ダメ、なのかな?

「まぁ良い。邪魔が入ることは想定内だ。狐にも雷禅の息子にも、思い知らせてやろう」

 狐……秀ちゃんが? 来て、くれる……の?

 だったら。

「先に事を済ませてしまうのは簡単だが、それではあまりにも面白味が無い」

 だったら、こんな所で負けられない。この人の思い通りになんかさせない!

「優梨よ、せっかくだからそなたにも見せてやろうぞ」

 逃げなきゃ。
 どうにかしてここから、この人の手の内から逃れなきゃ。

「そなたを愛し、守ると誓った男達の絶望する様を!」

 そんなの……

(…………じゃ、……ない)

 冗談じゃない。

「こうなってもまだ抵抗するか……大した気概だ」

 この人の好き勝手になんて……

(させて、たまるもんか……っ)

 どんな形でもいい。もう一目だけでも秀ちゃんに会いたい!
 会いに……行くんだッ!



 ――そして、狭い室内に瞬きと旋風が巻き起こる。



「……逃げたか」

 だがそれでも構わぬと、火影は“ソレ”を捨て置く。必要なものはここに残っているのだから。

「果たしてそなたは“自分”を取り戻しに来られるかな?」

 横たわる細身の女を見下ろしながら、火影は腹の底で嗤っていた。
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