守りたい 番外編
□扉一枚向こう側
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「……ね、幽助。私、やっぱりヤダ……」
「んなこと言ってたら、いつまで経ってもこのままだろーが」
浦飯家、幽助の部屋の前。
温子によって玄関を通された蔵馬、桑原、そして螢子。
三人は中から漏れ聞こえるこの意味深な声により、立ち尽くしてしまった。
事の発端はほとんど思いつき。
虫笛の騒ぎによって学校中が混乱し、しばらく休校状態となった。
しかし普段から成績も生活態度もなっていない不良二人が、ここぞとばかりに遊んでいて良い訳がない。
『この機会に二人ともみっちり復習することね! じゃないと本当に進級出来なくなっちゃうわよ?』
といった具合で螢子の提案により、幽助の家で勉強会を行うことになったのだ。
『うぇ〜』とうなだれてみても無駄なあがき。幽助はなんだかんだで螢子に逆らえない節があるし、桑原に至っては静流の『行ってこい』の一言で家を追い出される始末。
蔵馬と優梨は螢子の要望による家庭教師役だ。
そしてこの会話は、一足先に来ていた優梨と部屋の主である幽助のものだった。
「な……なんだ? 今の優梨さん、だよな? 何してんだあの二人?」
「「…………」」
黙りこくる蔵馬と螢子。
そんな事など露知らず、部屋の中の二人の会話は続く。
「〜〜でも、痛そうだし……」
「そんなモン最初だけだっての。慣れりゃ別にどってことねーだろ」
「私、こういうの苦手で……」
「大丈夫だって」
《おい〜〜! なんかコレ、ヤバいところに来ちまったんじゃねーのか!?》
ただならぬ様子に、思わず桑原は声を落として二人に訴える。
しかし、蔵馬も螢子も無反応。
それが却って……恐ろしい。
「ま、待った! やっぱりちょっと待ってよ幽助!」
「つべこべ言わずにさっさとこっち来い。あっ、こら動くな!」
「だってなんか怖いんだもん!」
どんどん怪しい方向に行っている気がする。もう桑原にはこの扉を開ける勇気は無い。
《おい、どーするよオメーら……って、うぉ!?》
振り向いて意見を求めた桑原が見たものは、どす黒いオーラを放つ美少年と美少女。
おそらく学校ではかなりモテるであろう筈のこの二人。しかし今は、普段の美貌は見る影もない。
今までこの二人に告白してきた連中に見せてやりたいくらいだ。
「きゃっ!」
「おとなしくしてろっての! オレに任せときゃいいんだよ」
「そんなの無理! 幽助ヘタそうだもん」
《おとなしく……何を任せろと言っているのかな、幽助は?》
《何がヘタなのかしらね……幽助は?》
ふふふ……。ははは……。
表情の無い不気味な笑い。
怖い。恐すぎる。
もはや桑原には掛ける言葉など何も無い。
「や……っ、ムリヤリ開かせないでよ!」
「こうでもしねーと入れらんねえだろ、お前の場合。ほら、じっとしてろよ」
「やん、〜〜やっぱ……ムリぃ!」
「うるせえ、こうなったら力ずくだ!」
ここまでくると、さすがに黙っている訳にはいかない。
三人はすっくと立ち上がった。
「幽助ぇ〜〜ッ! アンタ何してんのよ!?」
「浦飯! テメェ見損なったぜ!! 女の子相手にムリヤリだとぉ!? 恥を知れい!」
「……幽助……!」
扉を破り、一斉に幽助に殴り掛かる。
「は!? ちょっ、なんだオメーら!?」
「え、なに? みんなどしたの?」
完全ぶちギレモードの彼らに、言い訳は聞く耳持たない。
そして、幽助が手にしている物にも気づかない。