守りたい 番外編


□sexual panic!
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「ぎゃあぁぁぁ〜〜〜!」

闘神が統べる塔に、絶叫がこだまする。
その声は階下に位置する蔵馬の部屋にまで届き、思わずビクリと肩を跳ねさせる程の大声だった。

「今のは……」

脳内で答えを出すより先に体は走り出す。
若い女の声であるとか、この塔に寝泊まりしている女は限られているとか。そんな状況整理よりも瞬間的に理解した。
優梨の声である事を。
階段を駆け上がり、彼女の部屋へと急ぐ。
ドアの前の廊下には、既に幽助の姿があった。

「おい、なんだよ今のデケェ声」

「わからない、優梨の部屋からだ。優梨、何があった?」

ドアノブを捻ってみたところ鍵の手応えを感じた為、少々乱暴にドアを叩いた。すぐに無事を確認出来ないことにもどかしさを覚え、自分が付けさせた鍵であるにもかかわらず恨めしく思う。

「お〜い、何かあったのか?」
「ずいぶんと騒々しいな」

やがて他の面々もぞろぞろと集まり始めるが、優梨からの反応はない。

「優梨! 聞こえないのか、優梨!?」

こうなったらドアを破って入室するか……
そんな考えが頭をよぎった時だ。

「…………」

そろりと隙間程度にドアが開かれ、そこから優梨が顔半分だけを覗かせた。

「どうしたんだ優梨、大丈夫なのか?」

「……う、うん。ヘーキ。何でもないよ」

「何もなしにあんなデカイ声出すかよ。いいからここ開けろって」

「な、な、な……何でもないってばぁ!」

幽助がノブを引っ張るも、優梨が内側から押さえていて押し問答だ。
蔵馬は、何故か必死になっている優梨をよく見てみる。頑なに入室を拒むのは何か理由がある筈だ。

「あれ……優梨、カオ赤くないか?」

「えぇっ!? き、き、気のせいでしょ」

「「「…………」」」

何かある。全員がそう確信した。

「開けるか」

「そうだな」

「いやぁぁぁヘンタイ! 女の子の部屋に押し入るな〜〜!!」

いくら優梨が全力を出したところで、男の力ずくには敵わない。蔵馬は両手を使ってググッとノブを引き、強引にドアを解放した。

「ダメ! やだやだ入らないで〜〜!!」

「ちょっ、いい加減に……!」

体当たりで蔵馬にぶつかり、服をひっ掴んでその侵入を防ごうとする優梨。ここまでするからには余程の何かがあるのだろう。
あまり荒っぽい仕打ちはしたくなかったが

「っ、きゃん!」

突撃してくる彼女の勢いを利用し、受け流しの要領でかわして中へ足を踏み入れた。
辺りを見渡す……までもなく、床に散らばった数冊の小冊子が目に付く。

「………………え?」

あまりの惨状に、蔵馬は言葉を失った。それは続いて入室してきた幽助たちにも衝撃だったようで、目を剥いて固まっている。

「……な、な……!」

「なんじゃこりゃあぁぁ!?」

叫んだのは幽助だ。だが、叫びたい気持ちは蔵馬も同じだった。
叫べないのは、混乱が収まらないから。
現状がまだ把握出来ない。
ここは何処だ? 優梨の部屋だ。
そんな所に、何故こんな物がある?
こんな……
こんな、
こんないかがわしいモノが!

「……優梨? これは、一体……」

喉の奥から絞り出して、ようやく紡いだ言葉がそれだった。
優梨を見ると、真っ赤な顔をして俯いている。先程よりもずっと赤い顔だ。
当然といえば当然か。こんな物を見られて、彼女が平気でいられる訳がない。こんな……部屋中に散らかる魔界の春画本を。

「えっと、その……べ、勉強しようかなぁ〜なんて思ったりなんかして……」

「エロ本で勉強? 何をだ?」

「そ、それは〜……」

ふいっと目線を逸らす優梨だが、蔵馬はその真意を理解している。
先日のひと騒動の一件を引きずり、あらぬ方向へと転がってしまったのだろう。
優梨はどちらかと言えば直情型の性質だ。自分がダメだと思い込んだが一直線、こういった突飛な行動に出ることも予測しなくてはいけなかった。
これは蔵馬のミスだ。
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