Dreams
□happy!happy!winter
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お布団が恋しい季節。
数日前に、急にやって来た冷たい北風が私の街を吹き荒らしている。
12月になるまでは、と我慢していたが今日と言う今日は限界。クローゼットからマフラーを取り出して慌ててクリーニングのタグを取り去らう。
こんな寒い中待たせる訳にはいかない、マフラーを手に掴み約束の時間より5分早く、私は玄関を出た。
『やあ、おはよう。』
玄関の門扉を開けた私を待っていたのは冷たい木枯らしではなく暖かい春風だった。
「幸村くん!ごめん!寒かったよね?どれくらい待った…?」
『俺も今来たところ。それに全然寒くないし。平気平気!』
後ろ向いて?と私を促した幸村くんは、無造作にくしゃっと掴んだマフラーを手からするりと奪って私の首にふわっと巻き付ける。
幸村くんとお揃いの結び方にしてくれたかな?
「嘘だ!絶対寒かったでしょ!」
『俺をなめないでよね?…ほら、』
幸村くんの大きな右掌に、私のほっぺたが包まれる。
「わ…、すっごく温かい!」
『ね?』
「幸村くんってもしかしてすっごく心が冷たいの…?」
『こらこら、遠回りして迎えに来てるのは誰かなー?』
全然本気じゃない、だけどちょっぴり痛いでこぴんを1発食らって顔をくしゃくしゃにしてしまった。
「あぅ…っ、ごめんなさい。でもほんと、幸村くんの手温かい…」
『ふふ、ねえ手、出して?』
「?」
私は右手をパーにして幸村くんに差し出した。
『君にあげるね、俺の温もり。』
幸村くんはスラックスのポケットから取り出した温もりの正体と、私のパーを両掌で挟むように包み込んだ。
「なんだぁ…!やっぱり寒いんじゃない、幸村くん。」
『君にあげようと思って持って来たんだけどなー。』
マフラーから見え隠れする、幸村くんの少し尖らせた口が可愛いな。
「ありがと。今日一日頑張れる。体育も乗り切れる!」
『ふふ、それは頑張ってもらわないとね。持久走だっけ…?』
「あぁーもう!言わないでよぉ…!」
ふふっ、と私の反応をからかうように笑ってる。もう、優しいんだか意地悪なんだか分からないんだから。
『ねえ、一つ君に謝りたい事があるんだ。』
「え?何…?」
『12月25日は練習試合が入ってしまってね、一緒に過ごせそうに無いんだ。』
12月25日…クリスマスかぁ。
幸村くんも、初めて一緒に迎えるクリスマスの事意識してくれてたんだ。
でも、ぶっちゃけそんなのはどうでもいいな。クリスマスにテニスの試合よりも彼女と過ごす時間を優先させる幸村部長なんて幸村部長じゃない!
私は幸村くんの彼女である前に、立海テニス部の幸村部長の大ファンなんだから。
「じゃあ…クリスマスプレゼントは完全試合の報告ね!」
ちらっと幸村くんの顔を見ると、ちょっと苦笑いしてた。だけどすぐにキリッとした顔に戻って、『任せて!』そう言って得意満面に私の目を真っ直ぐ見てくれた。
『ねえ、今日の帰りは、駅前のカフェで温かいココアでも飲んで帰るのなんてどうかい?』
「うん!賛成っ!」
クリスマスなんていらない。
幸村くんが隣にいるだけで、暖炉の火よりも温かい冬の一日一日が、クリスマスプレゼントよりもずっとずっとhappyだもん。
『ほんの少しの時間も、君と一緒に過ごしたい。』