Dreams

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1週間程経ち、再び幸村くんの病室を訪れる。
新しい授業のまとめプリントと、自作の物を含めた何枚かのCDを幸村に渡すつもりで持って来た。

この間幸村くんと会ってからの間、気が付けばいつも、彼の事を考えていた。心が満たされていたと思う。
それだからピアノの練習にだって授業を聞くのだって身が入った。
ふんわりとした風のような雰囲気に今日も心がさらわれてしまうのだろう。

そんな事を考えながら、足取りも軽く自然と早歩きになって。
唯でさえ暑い季節。病院のロビーに着くと少し額が汗ばんでしまっていた。慌ててハンカチで抑えながら、彼の待つ病室へ向かう。

この間よりも更に、色んな意味でドキドキとしながら病室を覗いたが幸村くんは居なかった。
ふぅ、と呼吸を整え辺りを見回していると、


『やあ。待ってたよ!』

紅茶を乗せたトレーを持った幸村くんが迎えてくれた。

『そろそろ来る頃かなって思ったからお茶淹れてたんだ。入って?』

幸村くんのゆったりと優しく、しかしこの間よりも生き生きとした笑顔に緊張も吹き飛んで、今日も会えた嬉しさが心に滲んできた。
彼も私が来るの、楽しみにしてくれていたのかな、なんて、少し自惚れてしまう。

「ありがとう、丁度良かった。ケーキ買って来たんだ、一緒に食べようと思って。」

テーブルの上で買って来たケーキの箱を開けると、幸村は中を覗き込み、ふふっと無邪気な表情を見せる。

上品にフォークで少しだけケーキの端を取り、口に運ぶ姿をこっそり見ていた。

「…」

すぐに、私が視線を向けているのに気付かれてしまう。
フォークを口にくわえたまま、『…ん、?』と言ってこちらを見た彼がなんだか可愛くて。

「幸村くん、ちょっと太った…?」
『え…!』

咄嗟に左手の甲で自分の頬に触れる。

『…、嘘!ほんと?そんなに…違う?』

不意を突かれた、という様に驚いた表情を見せ、私の次の反応を伺うようにこちらを見る。
憎まれ口を叩けばどんな顔をしてくれるのかと思い言ってみたが、彼の少し不安気に眉を寄せた表情が愛おしい。

「ごめん、冗談。この前ちょっと痩せたなって思ったけど、元に戻りつつあるって言うか、健康的になったなって思っただけ。」
『そう…? まあ、体重が増えたのは確かなんだけどね…。最近前より食欲も出て来たし。』

ふわりとした藍色の髪をくしゃっと撫でながら、恥ずかしそうに目を逸らす。

「でも食欲が出て来たなんて安心したな。」

今はただ、彼が元気になっていくのを近くで感じられることが嬉しい。前よりも、顔が少しふっくらとしたな、と感じたのは、本当は冗談ではない。

「あ、それとこれ、約束のCD!」

夏らしい元気な曲とか、しっとりとしたバラードを選曲したものを何枚か、そして自分が演奏したピアノのCDを手渡した。

『わ、こんなに持って来てくれたんだ。』

私が手で曲名を書いたジャケット一枚一枚に目を通す。

その様子を少しそわそわした気分で見ていた。

『これ…ピアノ?』

書いてある曲名を見て幸村くんは首をかしげた。

「そう、分かった?そっか…、幸村くん、クラシック好きだって言ってたね。」
『うん。でもよく聴くのはオーケストラで、ピアノは有名な曲だったら分かるぐらいかな。』

幸村くんがCDのケースを開く。

『ちょっと、聴いてみてもいい?』
「えっ、あ、うん…。」
『ピアノの音色って、演奏する人によって全然違うよね。専門的なところは分からないけど。音の強弱だったりテンポだったり、同じ曲でも全然違うなって感じた事ある。』

プレーヤーにCDを入れて、イヤホンの準備をしながらそう話す。ピアノの曲に興味を持ってくれている事は嬉しかった。
だけど彼の言うように、同じ曲でも弾き手によって演奏の仕方が全然違う。
私だって、有名なピアニストの演奏を聴き比べるとやっぱり好みがあるから、彼が私の演奏を気に入ってくれるかどうかとても不安だった。

へ続きます。

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