Dreams

□耽溺 ♡
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ぽたっ、とベランダに雫の落ちる音が耳についた。
厚い雲に覆われた空の光が、カーテンの淡い色を鈍くぼんやりと映し出す。
よく耳を澄ますと、さあさあと細い雨が空からしきりに落ちていく寂しい音が街に響いているようだ。


この天気じゃデートも出来ないかな…
ふぅ、と溜め息を一つついて、一枚の布団の中で同じ温もりを分かち合っている彼女の方に身体を向けた。
すやすやと眠っている君の、伏せられた長い睫毛の一本すら愛おしい。
今日は朝から一日中一緒に居られる久々の休みだから、ずっとこうして君と同じ体温のままで、寝顔を眺めているのも悪くないな。
真っ白ですべらかなその素肌に触れたい、そう思って手を頬へ近づけたけれど、幸せな夢を見ているかのような愛らしい寝顔を崩してしまうのがもったいないから諦めた。
「大好き」
聞こえないように小さな小さな声でそう伝えて、俺ももうひと眠りしようと彼女から視線を離して天井を向きうとうと、夢の続きを見ようとして目を閉じた。


ポロン、
ベッドサイドテーブルに置かれた携帯が鳴らした、LINEを受信した事を示す通知音で夢から覚めてしまう。
まだ朝なのに…、
眠くて、閉じたがる瞼を一生懸命に開きながら自分のスマートフォンを手に取りホームボタンを押すけれど、明るくなった画面に映っているのは実家の庭に咲いたダリアの写真だけ。
不意に、テーブルに残された君のに目をやるとLINEの受信を通知している。

次第に大きくなった雨の粒が地面に向かって勢い良く落ちる音は部屋の中まで響いている。寝ている君には携帯の通知音は聞こえていないようだ。

別に、見ようと思ったわけではない。だけどポロン、と立て続けにもう一件のメッセージの受信を知らせる音が妙に気にかかり出来心で君の携帯を手に取ってしまう。
画面はロックされているからメッセージの全文を見る事は出来ないが、目に飛び込んで来たのは通知欄に二つ並ぶ知らない男の名前。
背筋が凍りつくような、それでいてカッと顔に血が巡るような感覚と焦りが、まだ夢から覚めたばかりの俺の心拍数をどんどん引き上げていく。
顔の筋肉は強張り、眉間に深い皺が寄っているのが自分でも分かる。ただただ、画面から目を離せない。

[おはようございます。昨日はお疲れのところ遅くまで付き合わせてしまいすみませんでした。つい優しさに甘えてしまって…]
[今度、埋め合わせさせてください!!僕のおススメのお店があるので良かったらどうですか?…]

一体どういう事なんだろうこれは。

君が携帯のパスコードを俺の誕生日に設定しているのを知っているから、寝ている隙をついてこの男とのやり取りを全て見てしまう事だって出来る。
頭の片隅でそんな底企みを働かせながら、ロックのかかった画面に“0”、“3、”と二つ数字を押した所でやっぱり怖くて手を止めた。

昨晩君が会社を出る前に俺にくれたLINEを思い出し、左手は逸るように自分の携帯の履歴をスクロールする。

「残業してた!今から急いで帰るね(*^^*)」

眠っている君を思わず咎めるように睨み付けた。
それも知らずに君はすやすやと無防備な姿で夢の中にいる。
多かれ少なかれ君に好意を持っているに違いないこの男が、穢れをしらない無垢なその肌を、髪を、綺麗だと思うなんて、触れたいと思うなんて絶対に許されない。

君は可愛い声で何度、この男の名前を呼んだのだろうか。
ねえ、俺に向けてくれているみたいな優しい光を、無邪気な笑顔をそいつにも見せるのかい?
もう何が妬ましいのか、何が気に入らないのか自分の中でもよく分からない。ただ、そんな事を考えれば考える程嫉妬で狂いそうなくらい寝起きの身体は熱く、理不尽に君を求めたがる。
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