Dreams

□耽溺 ♡
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『おはよ、』
精市の声が微かに、優しく耳の奥へ届く。ゆっくり瞼を開けるとすぐ近くに彼の顔があった。
「ん…、おはよ…」
起き抜けでふわふわとした頭のまま、いつもの様に目覚めのキスをおねだりしようと首へ手を回したが、精市が私に与えたのは突然火花が散ったかのような熱い感覚。
綺麗な眉を歪ませて、私の唇を噛みつくように塞ぐとねっとりと熱い舌を奥へ捻じ込んでくる。

「ん…っ!せぇ…いち…?ど…したの…っ」
『ねえ…、こんな朝から君に連絡をよこす男は誰なの?』
「…え?」
『俺でさえ君とまだ話してもいないのに、そんなに仲良いんだ?』

やっと深く息をする事を許されたかと思えば今度は私を責め立てるような冷たい視線を容赦なく注ぐ。

『昨日は…こいつと何、してたの?』

空気を含んで消えてしまいそうにくぐもった声で、切羽詰まらせこんな事を言ってくるその状況はなんとなくだが掴める。

「精市…怒ってる…?」

布団は剥ぎ取られ、精市は私の上へ跨り覆いかぶさって、顔を近付ける。
私の横髪を撫でる手が優しいと感じるのは幻か、その切れ長の目は鋭く私の心を咎める。

『ねえ、どこまで君を見せたの?』

布団の中の熱で温まりきった私の身体は、精市の冷たく凍りついた視線に火傷してしまうように更に熱くなる。

『どれくらい、近くで…君の肌にそいつの目が触れたの?』

私が昨日“残業”なんて中途半端な事言ったから。精市きっと勘違いして怒ってる。

「誤解だよ…後輩の男の子が仕事でミスしちゃったから処理を手伝ってたの。それだけだから。」

長い睫毛を軽く伏せ寂し気に眉を寄せた、綺麗であって物悲しい彼の素顔。
精市の右手は私の髪を耳にかけて、大切に頬に触れた。

『…なんか面白くないな』

いつもゆったりと落ち着いている精市がごく些細な事でたまに、自分本意に表に出す嫉妬深さ。彼のそういうところだけは、ずっと前から変わらない。
何度触れ合っても、身体を重ねても、好きだと伝えても。
私を満たしてくれるのはこれまでもこの先も精市だけ。その想いは彼に届いているようで届かない。

『転職して、君の会社に入り直そうかな。』
「へ!?」
『そうしたら、四六時中君の事見ていられるのに。』
「…、お仕事しなきゃ…いけないでしょ?」
『それか、俺が起業して社長になって、君を秘書にして社長室に閉じ込めてしまう、なんて言うのもいいかな…』

自分で自分の言った台詞を馬鹿にするみたいに、悲しげで色のない表情のまま、ふっ、と口元だけ笑う。
こんな風に無茶な妄想を語り出してどこかパラノイア気味になってしまう精市の姿は、私への気持ちをこの胸に刻み込んでくれるようで痛ましくも愛おしい。
子供のような精市の嫉妬心にどれだけ苦しめられても構わない。彼がくれる重たい愛にもっともっと埋もれたい。




『君のいる世界に存在するのは俺だけでいいんだ』


私の身体は、精市から与えられる熱でないと融かす事が出来ないのを知り尽くしているくせに。
何度でも、教えてあげるけれどね。そう言わんばかり精市の首に手を回して唇に甘く噛みついた。

私がもう彼から与えられる恍惚以外何も欲していない事を裏付けるように、その優しく厭らしい精市のキスは、たったそれだけで私を中まで熱く溶かしてしまう。

まだ起き抜けだというのに、私の身体は精市の指先をすんなりと受け入れる。
今日と言う今日は、体温の上がりきった身体が中まで濡れて溶けてなくなってしまいそうだ。

『もっと、もっと君を重たい愛で埋めてしまわないと、ふわふわ飛んで消えて行ってしまうんじゃないかって、不安なんだ。』

私しか知らない、哀愁溢れるも美しいその表情。

主張する精市の雄はずっしりと重く、私から溢れ出るものを絡み取りながら奥までゆっくりと溶かしていく。

『もっと俺を見て。』

大きなその腕で抱きしめられながら、精市の愛が身体にのしかかる重たさと深い深いキスの息苦しさに溺れる。依存性の強い麻薬みたいな、ものだと思った。
精市の柔らかな髪から二人お揃いの香りを深く大きく吸い込めば、それは脳の奥まで蕩かし幸せで満たしていく。

精市が腰を動かせば動かす程に、求めても求め足りない何かを、やっぱり今日も激しく求めて精市の身体にしがみついた。


『もっと…ッ…俺で感じて、俺だけに声を聞かせて。』


降りしきる大粒の雨の音に今、気付いた。
籠の中の鳥がもっともっとあなたを求める鳴き声も雨音にかき消され、届かないんじゃないかって不安だけれど、今は思うがままに鳴きたい。


「せいいち…、私の事、離さないで。」


お互いがお互いに強く依存し合って、さらに深まる愛を感じて。




♡END♡
彼女の事しか見えない故、本当に小さな事がきっかけで嫉妬深さをあらわにしてしまう幸村くん。
そしてそんな幸村くんが愛おしくて更に溺れてしまいお互いに依存してどうしようもない恋人同士だと素敵だなって思いました。
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