Dreams

□カタブツで優しくて
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「おはよ!さなだ!!」
『ああ、…お早う。』

「さなだ、今日も朝練だったの??」
『うむ、そうだが。』
「すごいね〜!ねえ、今日は何時に起きたの??」
『四時、だ』
「はぁ???はっっや!!!私まだ余裕で夢の中だわ!」

調子が狂う。
特にする必要もない質問を、会話を、こうして毎日のようにぶつけて来られるのだから。
つい最近の席替えで隣の席に来たこの女子は、何故だか俺の事を馴れ馴れしく呼び捨てる。
女子に己の名前を呼ばれる事すら滅多に無かったが、こいつだけは日に何度も、何度も、さも俺を自分の所有物だと勘違いしているかのような口調で。
調子が狂う、とは悪い意味で言っている訳ではない…、いや、勿論良い意味で言っている訳でもない…が。



「さなだぁ、今日の放課後部活休みなんだよね…?」
『なっ、なぜにそれを知っておるのだ…』
「へっへ〜、幸村くんに聞いちゃったもんね〜」
『…、昨日の練習試合の疲れを取る為の休みとなっているのだが、それがどうした。』
「放課後は何するの??」
『そうだな…和室に行って書道でも、と考えている。』

さすがのこいつも書道の話までは付いて来られないであろうが、興味が無いからと言って素気の無い反応を示されたとて若干、心中穏やかではない己が居る事に気が付く。
最近は執拗に話しかけられるのが呼び水となり、相手のペースにふらふらと引きずられる己の有り方に腹が立った事もあったが、このやり取りが無いのならそれはそれで調子が狂うのだ。




*****************

顔がコワい、なんて言う子が多いけど、私にとって真田は本当にカッコイイし男前。
人間味が全く感じられなくて、誰にも弱みを悟らせないような、その硬派な瞳が心にグッと来るの。でもね?
私がどんな不躾な質問をしても、「ああ」「そうだが」、顔色一つ変えなくて、なんでも来い、と言わんばかりにいつもドッシリと落ち着いた表情をして。そんな所に少しだけ本当は温かい彼の優しさを感じる。
もっと、真田の事知りたい。あわよくば、私だけしか知らない、お堅いお堅いポーカーフェイスが崩れた表情をみてみたい…なんて高望みまでしちゃう。

放課後の和室。好き好んで放課後こんな場所に来るのは真田くらいなんだから、付いて来れば2人きりになれるじゃん!と思ったから無理矢理付いて来た。

『お前…文字を書く事に興味はあるのか?』
「ん〜、習字に興味ある訳じゃないけど、真田が好きな事には興味ある!かな!」

真田は『お前の言い草はよく理解が出来ない』と言わんばかりに眉間に皺を寄せていつものしかめっ面をしながら、黙々と準備を始める。
自分の身体と垂直にした半紙の上に丁寧に文鎮を置いて、硯に向かいゆっくりと円を描くように墨を磨る。

『こうして墨を磨っている時に、何と書するがよいか、と考える事で己の心を落ち着かせ、徐々に精神を統一させるのだ。』
「へぇ…」
『お前は、慣れていないだろうからこの墨汁を使え。出し過ぎぬようにな。』

ふむふむ、と真田の話を聞いているふりをして。真剣だけど少しだけ、張りつめた緊張から解かれているようなリラックスした彼の表情をこっそり見ていた。

次の瞬間、視界が深い緑色で覆われる。

『これを膝に掛けろ。』

そう言った真田の方を見ると、自分が着ていたブレザーを私に差し出す手とは完全に反対方向に視線を逸らしている。私と目を合わせるのを避けているかのように。

「あ、ありがと…」
『その、スカートの丈はどうにかならんのか。』
「え…っ」

慣れない正座をしている下半身に目をやると短くしたスカートから覗く自分の太ももにハッとする。真田見てたんだ…、なんか、急に恥ずかしい。
いつも真田との会話は私がリードしている筈なのに、そんな事不意に言われたら変な意識しちゃうじゃない!

「もう…!真田のエッチ…!!」

照れ隠し、だけどちょっぴり煽るように、真田の反応が見たくてそう言ってみせながら、私は真田の手からブレザーをぶん取った。
『な…っ!?エ…ッ!!?何だと…っ!?』眉間にさっきよりも深い皺を寄せ、豪快で大きな声を出して慌て過ぎている真田が可愛い。
きっと、恋をした事が無い真田にとって私は何もかも“初めて”の女の子になりたいんだ。

真田のブレザーをふわ、と膝に掛けるとそこから伝わる真田の温度。
こんなに寒い冬の日なのに、真田の体温は私の心をすっぽり包み込んで恋の気持ちをもっともっと大きく膨らませる。
勢いづいた私の恋心は、筆を持つ不慣れな手を不思議にもスラスラと動かし半紙に大きく“好き”の文字を綴らせた。

恐る恐る真田の顔を見る。
気のせいかな?参った、と言わんばかりの“らしくない”表情でほんの少しだけ、頬を赤らめている。


『書に表す、という方法はお前が思っている以上に相手に気持ちが伝わるものだ。』


「…っじゃあ、真田の心にも伝わった…?私の気持ち…?」


『…無論だ。』

そう言って真田は大きな大きな掌をそっと優しく私の頭の上に乗せ、いつもは絶対見せない笑顔で私の目を見てくれた。

大きくて男らしくてあったかい、そんな真田を独り占め出来る女の子は私だけ。





♡END♡
大好きなさなせんはこんなイメージ。いつもありがとう(/ω\)♡

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