Dreams

□Seamless
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「約束がちが…う」
『…え?』
「ぎゅっ…て抱き締めてくれる約束は…?」
『その前に押し倒す、って…言っただろ?』




『安心して?大丈夫だから。』そんな言葉を囁くように優しく、ふふ、と意地悪に笑う。

細くてしなやかな五本の指の上に体重が全て掛からないようにしようと身体がぎこちなく硬直するけれど、精市の指先から感じる柔らかい力強さは、私が身も心も彼に預けるのを待っているような。そんな安心感にうっとりとしながら私の背中はベッドにそっと埋もれていく。
でもやっぱりちょっと怖い、そんな気持ちが勝っているのは分かるのに、身体は完全に彼の大きな掌に操られるかのように自由がきかない。
まるで、甘い台詞をばら撒いて小さな子供を誘い込む誘拐犯のようなアブナイ目つきをしてる、そんな彼の表情が少し怖くて、だけどその目でもっと見て欲しいと思わずにはいられなくて。



『思うように身体が動かない』



精市のもどかしい孤独なんて本当は分かってあげられていなかったかもしれない。ただ、寂しかった。

毎日のように精市の病室に行って他愛無い事で笑って、時には機嫌を伺いすぎて上手くリズムが合わない事もあって。
だけど精市は、私がここに居て手を握っていないとどこか深い闇の奥に逃げてしまうんじゃないかって、そう思うくらい私に寄りかかってくれた。すごく、嬉しかったのに、それだけじゃ寂しくて物足りなくて。
彼氏と、あれしたりここに行ったり、そんな話題でもちきりの周りの女の子達が羨ましい、って思うなんて、本当に、こんな自分には嫌悪感しかなかった。
私ももっと精市と一緒に居たい。肌に触れたい、触って、もっとキスして欲しいのに…ってそんな事ばっかり考えては枕を濡らしている自分の厭らしさには心からうんざりだったんだ。

本当はずっと精市にこうされたかった。
私の上に静かに落ちてくる精市の存在はとても重たくて、大きくて。精市って、本当に男の子なんだなぁって、知っているようで知らなかった純粋な事実を証明してくれるかのようにその身体がゆっくりと重なる。
精市の背中は大きくて、とても筋肉質で、男の子の身体ってこんなに変わるんだ…そう思って惚れ惚れしながらゴツゴツと硬い肩甲骨の辺りを触れようにも指先が照れてしまう。改めて感じる精市の男らしさにちょっと戸惑ってる。
折角の、初めての、舌が触れ合う深いキスに集中出来ないまま、指先は思いきりが悪くそわそわと精市の引き締まった身体の上で居場所を探している。


『結構…、筋肉付いたでしょ?』


落ち着かない私の様子を見抜いたんだろうな、唇をそっと離してふわっと微笑んだ精市は、例えあの頃と全然違う体つきで私を驚かせたとしてもやっぱり私の大好きな大好きな優しい精市に違いなかった。
こんなに、精市を近くで見るのは初めて。横髪を掛け直したら見える耳の形とか、綺麗な鼻筋とか、女の子みたいに透き通ってて少しも荒れていない肌を目の当たりにすればする程、こんなに格好いい精市が私の彼氏であるのが不思議な事だし恐れ多いとすら思うのに、この美し過ぎる男の子は私を愛してくれる。『好き』の言葉をたくさん貰ってもまだやっぱり夢のよう。そんな事を意識の奥の方で考えながら生温かく柔らかい精市の舌の感触をもっともっと感じ取れば、自分の欲に素直に甘えられるかな。大好きな精市を独り占め出来る幸せを感じられるのかな。

精市の吐息は次第に荒くなって、どんどん男の子の表情になるのに、その舌先の動きはとても繊細で柔らかい。精市は初めてのディープキスだって上手にリードしてくれるんだろうなって、予想は的中。乱れる息の音とねっとりとした感覚はより積極的に私の理性を掻き乱し、精市の舌に触れているだけでもうふわふわと意識が飛んでいってしまいそう。



精市の身体がより近くなって、2人の体重が更に深くベッドに沈むと、急に耳の奥でギシ、とパイプの軋む音が聞こえたような気がして思わず肩を揺らしてしまった。
精市の部屋の大きくて丈夫で高級そうなこのベッドからそんな音が鳴るはずなんてないのに。



『…どうした…?』

幸せなキスの最中に突然ビクリと反応してしまったのだから無理もない。心配そうに眉を寄せて、精市は私の顔を覗いている。



私って本当にいけない子だよね

病室でね、ベッドに腰掛けていた精市が突然立ち上がって白いシーツの上に私を押し倒すの。『本当は、身体に力が入らないなんて嘘だよ。』そう言って私の事からかって、騙しているみたいにふふ、と笑ってくれたらいいのにって、何度も何度もそんな事を願いながら自分を慰めて。精市がこうして元気になった身体で目の前にいる今だって、頭の中にこびりついて離れない迷夢は、私の脳に幻聴さえもたらす。なんだか最悪で、精市に申し訳なくて、目の端に涙が溜まっていく。優しい顔がぼんやり滲んでいく。

『ふふ…、どうして?そんなに俺に抱かれたかった?』

そう言ってニヤニヤっと目を細めた精市は、親指で目尻から零れ落ちそうな涙を拭って受け止めてくれた。
私の気持ちは純粋なそれとはなんだか違う気がしたけれど、精市は、背徳感に震える私の身体を上から包み込むように大きな身体で抱き締めて『いいから。素直に俺に身を預けてよ。』って、言ってくれてるみたいなんて、どこまでも私は自分本位だね。


『俺はずっと、こうしたかった。…もどかしかったんだ。会う度に綺麗になって君ばかり大人になっていく気がして。』

筋肉質な精市の身体がきつく食い込む息苦しささえ、耳元で響く切なく甘い声が和らげる。精市がくれる大きな幸せは結局、心の中にしつこく残る罪悪感すら奪ってくれる。

『俺、あの頃とは違うから。身体も、鍛えたしちょっとは男らしくなっただろ?…今なら、ねえ?君の事ドキドキさせられるかもしれない、って思うのは俺の慢心かな。』

精市は自らの手でネクタイを外してシャツのボタンを上から一つずつ開けていく。だんだん露になる精市の上半身を直視出来ずに目を伏せてしまう。精市が男だという事を改めて認めてしまえば、これからどんな事があるのか、分かりきったその事実をひどく意識して更に身体がこわばる。


『今なら、堂々と君の事抱き締められる。だからもっと…俺の事、見て?』

私と同じくらいの細さになってしまうのではないか、と不安になる程か細い身体はもうその面影すら無い。点滴の管を繋いだ弱々しく細い手は別人のものだったかのよう。
あまりにも綺麗な素肌に似つかわしくもない堅い筋肉に覆われた、男である精市の身体はどんどん華奢な私の身体を真っ白なシーツの上に押し込めていく。息をする暇も与えてくれない、今まで我慢していたものが吹っ切れたみたいに貪りつくようなキスの息苦しさに陶酔する。


『君の全てを…見せて』


容赦なく降らされるキスの感覚に溺れてぼんやりと意識を保っているだけの頭の片隅で、精市が放ったその言葉がループする。いいともダメとも言っていない、だけど気が付いたら大きくて温かい掌の感触を自分の肌の上に感じていた。
優しくて、厭らしい。大人びていて、どこか初々しい。テニスラケットを握る自信みなぎるそれとは真逆の、緊張を纏い今にも震え出しそうな精市の手が愛おしい。
そして、虚しくも、満たされない欲を求め続けて自らの指に慣らされてしまった私の身体は、それまで頭の中で願っていた事が一つずつ現実になる度はしたなく敏感に反応する。

早く、早く、精市の全てを受け止めたい。もっともっと、近くで、より密着して、この身体全部で精市を感じたい。そんな気持ちになる私はまるで処女ではないみたいで、複雑で恥ずかしい。だけど何度も何度も胸裏でいたずらに繰り広げられる迷妄の中で、精市と一つになったのだから、それがどれほど待ち望んだ幸せに満ちた事であるか、知っているから。自分から求めてもいいでしょう?訳も分からずに頭の中で自分を肯定してしまえば、自らの手は無意識に精市のスラックスのベルトに触れていた。

ほんの少しだけ驚いた表情を見せたかと思えば、急にまた何かを企てているような目つきをして。それが私にとっては性的で興奮をそそるものでしかない。網膜まで熱されてしまいそうなその視線を容赦なく落としながら、精市はポケットからコンドームを取り出して外袋の端を口に咥えたまま、バックルをそわそわと触っているやっぱりどこか思い切りのない私の手の存在には構わずに荒々しくベルトを外しスラックスを脱ぎ去った。

私がしていた初エッチの妄想などというのは、女の子向けの漫画や小説に出て来るようなキラキラとした憧れのようなものであって、身を持って感じるそれの生々しさは今までの私では到底想像出来るはずもないものだった。自らの指によって快感を覚えてしまったはずの私のはしたなく厭らしいところさえ緊張して、精市の大きなモノを恐れているように上手く解れてくれない。精市の甘くて雄雄しい吐息が本当に今、私の鼓膜の奥をゾクゾクと震わせているの?私の妄想は一体どこまでが現実になったのだろう、目の前の精市の身体にこんなに容易に触れられるのに、精市から与えられる甘美で刺激的な感覚は夢と現を行き来している。



『力、抜いて?』


『楽にして…、』



初めての過激な感覚に何が起こっているのか考える事も出来なくなっている真っ白な頭の片隅で、空気を含んでくぐもった彼の声だけはとてもリアルに、何度も何度も優しく響く。大きな雄が1ミリ、又その奥へ処女膜を目指すその恐怖心を私に与えているのも、他の誰でもない、私の愛すべき人に他ならないのだと裏付けて安心させてくれる。

『大丈夫、無理に挿れて君の身体痛めたりなんて絶対にしないよ。安心して、俺に身体を預けて…』

全部受け入れられた時にはもう、精市が自ら思うままに身体を揺らすその刺激さえも全て受け止められるくらいに膣内は幸せに濡れて溢れた粘着音は恥ずかしく、広いベッドの上に響いていた。
生きているのなら誰にでもあり溢れるのであろう欲にこれほど素直に、自ら思うままに私に腰を突き付けては綺麗な顔を歪ませる。初めて見る、男である精市の姿が激しく熱くその膜を突き破って、夢の中の妄想でなく本当に精市に処女を捧げられた事を、粘液に混じってシーツに滲み出した少しの鮮血が明らかにした。

弱々しくてか細い身体も、失意に溢れたような悲し気な表情も、寧ろそれが全て夢か幻だったんだと思わずにはいられない。それくらいに、強く強く、私を抱き締める精市の腕が身体に食い込む感覚、痛み、息苦しさに深く溺れた。

幸せなんて、そんな言葉でも到底片付けられない想いが、私の記憶の中の精市の姿を覆い隠そうとする。






神様が長い間精市から奪っていた自由は、こんなにも二人を満たし合いながらお互いがお互いを深く愛する事の出来る大切な大切なものだったんだ。




♡END♡
初めて、幸村くんに全てを愛して貰えて幸せな夢主。

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