はぁ…恐れていた事態。
最近仕事で疲れて自分の身体の事も労わってあげられなくて、おまけに生理前だし気分はモヤモヤ。

『明日、一緒にランチなんてどうかな?(^^) また、連絡するね。おやすみ☆彡』

昨晩精市がくれたメールを開き直し溜め息を一つついて、洗面台に向かった。

やっぱり、何度見ても肌荒れがひどい。疲れと寝不足はこの歳になるとお肌に顕著に表れて、笑顔を作るのを邪魔する。必死に隠そうとして重ねるファンデーションも、ちっとも肌に馴染んでくれない。
“こんな私、全然可愛くない。”そう思って鏡を見れば見るほどに、目の下のクマは深く、頬に出来たニキビはより大きく見えてしまう。こんな顔精市に見せられないよ。

精市に、笑顔で会えない。

泣きそうになりながら携帯のダイヤルボタンを押せば聞こえてくる、褪せてしまった私の表情とは裏腹な精市の優しく彩りのある声。
『やぁ、起きれた? 何時にしようか。俺気になってたお店があるんだ!…』

「ごめん、精市…。今日、…ちょっと体調悪くて。」
『え…?…そっか、…じゃぁ、今日はやめとく?』
「…うん…、、ごめんね」
『謝らないで。また、次の機会にしようか。』

トーンダウンした甘くて切ない声を聞けば、会えないと言った事を悔やむ気持ちでいっぱいになるけれど、自分の肌のぶつぶつとした感触に触れたらやっぱり断って良かったと思うし、本当にモヤモヤする。

『……、本当はどうしたのかい?』
「…え」

あぁぁ、体調不良じゃないのバレてた。そっか、精市に仮病は通用しないんだった。

「幸村に仮病は使えんからのぅ、さてどうやって練習をサボるか…」
そう言えば昔誰かがこんな事を言ってて、「今のは幸村には言わんどってな、」と釘をさされたのを思い出した。今はどうでもいい話だけれど。

「あ…あの…、その、肌荒れが…ひどくて、、、、、」
『肌荒れ?…ふふ、そんなの気にしないのに…。まぁ、君がそう言うんだったら仕方ないけれど。疲れが溜まってるんじゃない?今日はゆっくり休んで。』

はぁ。精市はこんなに優しいのに。精市はいつもどんな時も素敵な男性なのに。横にいる私がこんな顔じゃなぁ。精市に釣り合う要素なんて一つもないのに、元気な笑顔すら見せられないなんて。
ちょっとプチ鬱になって、せっかく化粧をしたけれどドアもカーテンも閉め切って一歩も外に出ないまま、夜になった。
辺りが暗くなると、表情に自信がなくても隠れていられるようで少し、安心した。


*************


『やぁ。これから散歩に行こうよ!』
「…え!?」

今日一日ずっと精市の事考えてたから、あまりにも唐突な彼の誘いにさえ胸が躍ってワクワクしたけれど、肌荒れが気になる事話した後だからきっと精市は私の肌を一番に見るんじゃないかと考えて、それだったら困るな…どうしよう、と戸惑ったのも束の間。『今から、迎えに行くから。いいよね?』と半ば強引に落とし掛けられれば「…うん…、待ってる。」私の心の中の本音の本音がこんな時に限って自然と声になって電話の向こうの愛おしくて堪らない人にそう伝える。


ふわっと微笑んで『行こうか。』と差し伸べてくれた手に触れると、そこには二人だけしか居ない、暖かい暗闇の中へと誘われるよう。
薄いシャツに落ち着いた濃い色のジーンズを纏ったカジュアルな貴公子が連れて来た心地いい春の風に、身も心もさらわれてしまいたいと願ってしまった。

『夜だったら会ってくれるかな、と思って。』

いつだって私の気持ちを大切にしてくれる精市に笑顔を見せたいけれど、やっぱり自身が無くてなかなか顔を上げられない。
だけど精市の隣を歩く事で感じてしまううしろめたさも、緊張も、精市のシャツから香る爽やかな恋の香りが溶かしてくれるみたいで。
少し、甘えたい気分になったからもう半歩だけ寄り添いながら公園沿いの桜並木をたった二人でゆっくり時間をかけて歩く。

二、三日前までは見事に咲き誇り、堂々と季節の主役を演じていた桜の木々も、今は少し悲し気で、蒼然とした世界の中で花びらの涙を零しているよう。
その景色を見ると“桜の花の命は短い分、地面に散り落ちるその最後の瞬間まで美しくあろうとしているんだ” 精市ならそう感じているんだろうな、なんて予想しながら思わず、隣にいる彼の顔を見上げた。

『桜の花が散るのは儚くて寂しいけれど、またこの木にこれから新しい息吹が芽生えると思うと、生命ってすごいな、って感じさせられるよ。』

たまに改まった事を言う時の精市の、どこか私の知らない遠くの場所を見ているような繊細な表情がとても好きで、その綺麗さに見とれてしまう。

ひゅぅ、と少し強めの風が吹いて、ああ、また散ってしまう、やっぱり少し名残惜しい気持ちで舞っている花びらを目で追っていた。精市は『動かないで、』そう言って私の髪に絡んだ桜の花びらを指ですくってくれた。そして、思い出したように肌触りの悪い私の頬を綺麗なその手ですっぽりと包み込む。本当は触って欲しくないけれど、その温かさに肌の傷みが癒えていくみたいでとても気持ちが良い。

『綺麗じゃないか。…どこが肌荒れしてるんだい?』
「ん…ここ、とか…ここのニキビとか…っあんまり近くで見ないで…」
『え…?どこ…!?』
「ここだって…!ほっぺの下の方…暗いから見えないだけだよ…!」



「…っ…!」

そう。いつだって思いがけない精市のアクションに一本取られれば、それまで悩んでた事も、くよくよしていた事も、全部忘れてしまう程の破壊力を大いに実感する。



『はぁ…、あまりにも気にならないからキスしちゃった。』
「もう…なにそれ…っ」

あくまで自然にさり気なく、私の心の中を全部奪って自分のものにしてしまう。
まるで、舞い散る花びらが音を立てているみたいに、精市の澄み切った愛おしい笑い声が二人だけの世界に響けばとても幸せな気分になって私もつられた。『やっと笑ってくれた!』と嬉しそうな彼を見て、この人の前では一生笑顔で居ようって決めた。



『そんな肌荒れなんかに君の笑顔が負けるはずない。





…ふふ、元気出た?』








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