Long

□赤いあの人
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01.はじめまして




金曜日、バイト先のカフェでテーブルを拭きながら壁にかけてある時計に目を向けた
すると、時計の針はもう午後6時を回っていた
それを確認したわたしは、もうすぐだ、と少し笑みをこぼす
時計にあった視線をカフェの窓へと移そうとしたとき、わたしの背後から声がかかった

「あ、紗良ちゃん、俺、この後ちょっと用事があんだ。早めに店閉めるから帰りの支度してていいよ。」

そう言ったのはこのカフェのオーナーであるサンジさんだった
カウンターテーブルを挟んだその目の前には彼の恋人であるナミさんがサンジさんお手製のケーキを口に運んでいる


サンジさんはお店に来る女の子に片っ端からデレデレしていて、最初に彼女がいるって紹介されたときは失礼ながら驚いたのを覚えている

一方のナミさんはというと、そんなサンジさんを気にすることなく「いつものことだから」と半ば呆れたように笑う

そういう風に笑えるナミさんを見て、2人の信頼関係がよく伝わった
たぶん、わたしが知らないところですごく愛されてるだな、って
カウンターに座るナミさんと向かい合うサンジさんも他の女の子には向けないような顔をしているし

「デートですか?」

そんな2人の様子に微笑みながら訪ねるとナミさんが首を振った


「違うわよ、このあと高校のときの仲間と飲み会なの。定期的にあってさ。」

ナミさんは懐かしむような楽しそな顔で笑いながら言った

「何人か来るんだけど、そのうちの一人がここの目の前の大学で、一緒に行く待ち合わせ中なのよ。」


その言葉を聞いて、わたしは窓越しに大通りの向かいにある大学に目を向けた

そしてすぐに、「あっ…」と声を出す

そんなわたしに「どうしたの?」とサンジさんが聞いてきたけど、「すいません、何でもないです」と笑って返して、また視線を大学の門へと向けた


そこから出てきたのは、燃えるような赤い髪の男の人
その隣には遠くからでは上手く特徴がつかめないけど、スラッとした黒髪の男の人と長い黒髪ををなびかせて歩く女の人

大体金曜日のこの時間になると彼らは大学から出てくるのだ
そして、それを眺めるのがちょっと楽しみだったりする

なんでか、って聞かれたら分からない
ただ、無意識のうちにそれが習慣化してしまった


その3人の中でも特に目を惹くのはやっぱり赤髪の人で、初めて見たときは逆立つ髪がチューリップみたいで可愛いな、とか思ったっけ


今日も見れたな、なんてちょっと口元を緩めてから「それじゃあ、着替えてきます。」とサンジさんに伝えて裏へと入る


更衣室のロッカーを開けて、着てきた高校の制服を綺麗に畳むと持ってきていた私服に袖を通す
高校3年という忙しい時期だけど、わたしのところはエスカレーターで大学まで行けるからこうやってバイトをしていられる

よしっ、と荷物をまとめ終えたところでお店の方が少し騒がしくなった

「さっき言っていたサンジさんとナミさんのお友達が来たのかな…?」

最後にあいさつだけして帰ろうとすぐに裏口には向かわず、もう一度お店の方へと顔を出す


「ロビンちゅわ〜ん!!相変わらず綺麗だねぇ〜!!」

すぐに聞こえてきたのはサンジさんの声だった


待ち合わせしているのは女の人だったのか

そんなことを思いながら、扉から出ると、真っ先に目に入ったのはあの赤い色だった


…えっ?


びっくりしたわたしは半歩後ろに下がろうとして閉じたドアに頭をぶつけた

ドン、という鈍い音が響いて、それまでカフェの入口の方にいたみんなの目がこちらに向く

「あ、紗良ちゃん!?大丈夫!?」

真っ先に声をかけてくれたサンジさんに「大丈夫です」と苦笑いを浮かべ、頭を擦りながら答える


「紗良、さっき話してたわたしたち仲間のロビンよ」

そう言って、ナミさんがわたしに紹介したのは先程見た長い黒髪の女の人だった
間近で見るその人はものすごい美人で
圧倒されたわたしは「あっ…えっと、紗良です…」なんて小さい声で返すことしかできなかった
そんなわたしを見て、ロビンさんは「よろしくね。」と微笑んで返してくれた

なんて優しそうな人なんだ…!!



そんな感動をしているわたしを余所に、少し離れたところからサンジさんのブツブツとした文句が聞こえる

「なんで、てめぇらもいんだよ。野郎はお断りだ、出てけ。折角、ロビンちゃんに会えたってのに台無しじゃねぇかよ」

…相変わらずサンジさんは男の人には厳しい
というか、差別的というか…

そんなサンジさんの言葉を聞いて、スラッとした黒髪の男の人の眉間にシワが寄った
よく見ると、イケメンなんだけど、目の周りには隈があって、鬚も生やしててちょっと怖いかも……

「なんだと、黒足屋。てめぇが来いつったから来てやったんだろ。なのに今日はもう仕舞いだと?」

「タイミングが悪ぃんだよ、てめぇは。今日はこれからルフィたちと飲むんだ。それに来るなら可愛い女の子を連れて来いって言っただろうが!!」

「ニコ屋を連れて来た。」

「ロビンちゃんはもともと俺らと約束してたんだよ!!」


なんか下らない話をしているようだけど、会話からするに、この人とサンジさんは知り合いみたい

…ってことは赤い髪の人とも……?

チラッと入口付近で腕を組んで黙って隈のある男の人とサンジさんの言い争いを見ている赤い髪の人を見る


そんなわたしの視線に気づいたのか、赤い髪の人がわたしの方に視線を寄こした

赤い髪の人は、逆立てた髪の毛にバンダナをしていて、赤い唇も結構印象的。近くで見るととても大きかった
一言で表すと、不良という言葉が合いそうだ


目が合ったとき、どんな反応をしていいのか分からず、とりあえず少し頭を下げて「紗良です」と自己紹介をする

それに、赤い髪の人は「俺はキッド…ユースタス・キッドだ」と短く返してくれた

初めて聞くその声は低く優しくて、どこか心地よかった


それを見たサンジさんが「おい、トラ男。てめぇも紗良ちゃんに挨拶しろ。」と言ってまだ続いていた口論を一旦止めた

「おい、黒足屋。命令すんじゃねぇ。」

トラ男と呼ばれた隈のある男の人はまた眉間にシワを寄せるも、「トラファルガー・ローだ」と名乗ってくれた






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