DonQuixote Doflamingo

□海賊と姫の一週間
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02.一夜目






「おやすみなさい、お母さま」

いつものようにわたしの部屋の鍵を閉めに来たお母さまの肩に腕を回して挨拶をしてからベッドに横たわる

いつも通り、暗くて寂しい夜
お母さまがくれた本には眠るまで絵本を読み聞かせてもらう子供や
抱きしめられて暖かい温もりの中で眠る子がいた

それがずっと羨ましくて、昔、一緒に寝てほしいと頼んだことがあった
けれど、「仕事で忙しい。」と一言で断られてしまったのだ

1人で寝るには大きくて冷たいベッドに少しでも温もりを感じようと小さく丸まって目を閉じた



ガタン…

風もない静かな夜なのに、窓が揺れる音が聞こえて、不審に思って目を開ける


「フッフッフッ…こんばんは、お姫サン。」

上半身だけを起き上がらせて声が聞こえた方に目を向ける
すると、窓が開いていて、その前には大きな人影があった
月の逆光で顔は見えないが、声と体格からしてきっと男の人だろう


「……こんばんは。お客さまなんて初めてです。」

「フフフ…独りぼっちのお姫さまがいるってんで、興味本位で来てみたんだが…お嬢チャンがそうか。」

その人は楽しそうに笑ってわたしの方へと近づいてきた
お母さま以外とお話しするのは久しぶりで、知らない人が来たという恐怖心よりはむしろ、興奮や高揚感があった


「…お姫さまではないですけど、ここにはわたししかいないですよ」

その言葉を聞いたあと、その男の人はわたしの方をジッと見つめて楽しそうに口元を釣り上げた

「確かに、噂通りのいい女だな。」

「噂…?」

「島民に色々聞いたんだよ。それより、何にもねぇな、この部屋。ヒマだろ」

一通り部屋を見回した男はわたしが普段使っているイスは小さすぎて座れないのかベッドに腰かけた

「そうですね…お母さまがときどき本を持ってきてくれるのでそれを読んだり、そこの窓から島の皆さんとお話ししたりしてます。」

「フッフッフッ…つまらねぇな。外に出てぇとか思わねぇのか?」

「思いますけど…お母さまが……悲しんでしまうので。」

昔、小さい頃にこっそりと外に出て、手ひどく怒られたことがあった
泣かれて叩かれて、それからしばらくは窓も閉められて本当に独りぼっちにされてしまったのだ

悲しませてしまうのは本当だが、本音を言えば、またあの寂しさを味わうのは嫌だった


俯くわたしを男の人はジロりと見下ろして「そうか。」と呟いた

「そんなに母親が好きか。別に構わねぇがお前の人生なんだから自分のやりたいようにやらなきゃ生きている意味ねぇと思うが。」

「やりたいように……?」

「なんかねぇのか。したいこととかやりてぇこと」

ずっと、一人で、そういうことを聞いてくれる人が居なかったからなんて答えていいのか少し悩んだ

でも、この塔にいるときからずっと抱えていた夢、というか望みはあった

「……もう1人で寂しいのは嫌です。………お出かけしたり、誰かと一緒に寝たりしてみたいです…」

その答えを聞いた男の人は口元をニンマリとさせて
優しく手のひらをわたしの頭に置いた

「フッフッフッ…それじゃあ、一つだけ俺が叶えてやる。だが、もう一つは自分でどうにかするんだな。」

そう言って男の人は着ていたモフモフとした上着を脱いで再びわたしの横に腰かけた


「これから一週間だが、俺が夜に会いに来てやる。そんで一緒に寝てやるよ。」

「本当ですか!?」


わたしは思いもよらない提案に目を見開いた
ずっと、昔から一人この部屋の中で過ごしていた寂しい夜を
一週間だけとはいえ誰かと一緒に過ごせるのだ


「フフフ…俺はウソは言わねぇ。寝るくらいならいくらでもしてやる。」

そう言った男の人はさっそく、寝るか、とわたしを抱き寄せた


「……あの…寝る前に、一つだけお願いしてもいいですか?」

「…なんだ?」

「眠る前に、外の島のお話しを聞かせて欲しいです。この海は新世界といって色んな、全く違う文化のある島があると本に書いてありました。ずっと、外のお話を聞きたいと思っていたんです。」


この男の人が来てから聞きたかったことをようやく切り出せた

男の人は少し黙ったあとにフッフッフ!!と特徴的な笑いをこぼした


「お姫サンは俺の話を聞きてぇのか。ロクな話はねぇぞ。それでもいいのか?」

「もちろんです。あなたはどんな国から来たのですか?」


話してくれるというその男の人に興奮気味で身を乗り出して尋ねると、「まぁ、待てよ。ちゃんと話すから落ち着け。」と制された



「その前にまず、名乗ってなかったな。俺はドンキホーテ・ドフラミンゴだ。お姫サンの名前はなんてんだ?」

そう言われてやっと、わたしは男の人の名前を知らなかったことに気づいた

なんとなく聞き覚えのある名前…
そう思ったが、きっと、それはさっきまでフラミンゴを連想させるような上着を着ていたからだろう


「わたしの方こそ名乗らず…失礼しました。わたしは紗良と言います。」

先に名乗ってくれたドフラミンゴさんに慌てて名乗って、今さら、と思うような挨拶を交わした


「んで、俺の島の話だったよな。」

そう言って、ドフラミンゴさんは枕に背中を預けて話し始めてくれた






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