Middle & Short
□雨が降るとき
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あのカフェでの不思議な一件から一か月が経った
車のお迎え、良さそうなスーツ、それにサラッと人の分のお会計まで済ましてしまうスマートさ
怖そうな人だったのにそうでもなかったのも印象深い
絶対ただ者じゃなかったんだろうな
今までにない強烈的な出来事だったからか、度々あの雨の日の出来事を思い出してはうーん、と頭を捻る
そんなとき、ポツンと冷たい雫が頬を伝った
それに反応して空を見上げると雨が降り始めていた
え……今日雨が降るなんて天気予報では言ってなかったのに!傘持って来てないよ…
心の中で少し悪態をつきながらも先程まで買い物をしていた袋をかばうように早歩きでどこか雨宿りができる場所を探した
プップーーー
「紗良チャン」
とりあえずあのお店に、と足を向けたとき、車道の方からクラクションが聞こえ、名前を呼ばれた
誰だろう?と思って振り返るとそこに居たのは先程まで思い返していたあのデキる悪人面の男だった
「ちょっとそこで待ってろ。すぐ行くから。」
そう言って、下げていた窓を閉めるとすぐ道路の端に車を着けて傘を持って運転席から出てきた
「えと…ありがとうございます」
男はわたしの側まで来ると傘をわたしの頭の上に持ってきてくれた
この間はそんなに気にしなかったけど、すっごく背が高い
わたしは文字通り男を見上げた
「フフフ…この間とは逆になったな」
ご機嫌なのか口元を上に釣り上げて笑う
「ほんとですね。それにしても、よくわたしのことわかりましたね」
「紗良チャンこそよく覚えてくれてたな」
あなたみたいな強烈な人を忘れるわけがない、と思いながらも「まぁ…」と言葉を濁して頷いた
「ところで、なんで名前を?」
「ん?この間、初めて会ったとき、マスターが呼んでいただろ。」
あぁー…そうだったような…
とあのときの記憶を探り、思い出す
「……そういや、俺は名乗ってなかったな。ドンキホーテ・ドフラミンゴだ。名乗るのが遅くなってすまねぇな。」
「ドフラミンゴさん…」
「あぁ、気軽に呼んでくれて構わねぇ。それより、外は冷える。良かったら送っていくから乗れよ。」
そう言ってドフラミンゴさんは車の方に体を向ける
「え、それは…」
「遠慮ならすんな。別に取って食おうってわけじゃねぇから安心もしろ。ちゃんと送り届ける」
会って2回目の男の車にホイホイと乗っていいものかと迷っていたわたしを見抜くかのようにドフラミンゴさんは言った
「そういうわけじゃ…」
「じゃあ、乗れ。」
なんとも有無を言わせない物言いにわたしは大人しく車の方へと足を進めた
「…最寄駅はどこだ。」
「え?」
車に乗ってから少ししてからドフラミンゴさんがわたしに聞いてきた
「さすがに、会って2回の男を家にまで案内すんのは嫌だろ。最寄駅で降ろしてやる。」
本当にこの人はよく考えてくれている
と、感謝と感心をしながら最寄駅を伝えた
「ありがとうございます。…それにしても、またお会いするとは思いませんでした」
「…そうか?俺はもう一度会えると思っていたがな」
そのドフラミンゴさんの言葉に驚いて運転席の方に顔を向ける
「なんでですか?」
「さぁな。敢えて言えば…勘だ。」
「勘、ですか」
「フフフ…そうだ、勘だ」
そうやって楽しそうに笑うドフラミンゴさんにつられて、わたしも「ふふ…すごいですね、ドフラミンゴさんの勘は。」と笑って返した
そうやって他愛もない会話がしばらく続いて、わたしの最寄駅まであと半分くらいの距離になった
「あー…紗良チャン、この後用事は?」
時間を見れば午後6時を回っていて、なんとなくドフラミンゴさんが言わんとしていることが分かった
そのうえで、わたしは「特にないですよ。」と返した
「そうか。それじゃあ、飯でもどうだ?」
予想通りの誘いに「ぜひ。」と頷いて一言、冗談くらいのノリで「イタリアンが食べたいです。」と言ってみた
「フフフ…リクエストとは助かる。酒は飲むか?」
「普通、くらいには」
「じゃあ、あまり飲ませないようにしねぇとな、フッフッフッ…」
「ドフラミンゴさんは強そうですもんね。」
「まぁ、好きだからな。……ここだ、着いたぞ。」
ドフラミンゴさんが連れてきてくれたレストランは超が付くほどの有名店だった
もともと普通の人ではないと思っていたが、こうなると本物の金持ちだ
……わたしはすごい人と知り合いになったのかもしれない
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