Middle & Short

□雨が降るとき
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「ご馳走様でした。」


夕食を終えて、裏口から車へと向かう途中にお礼を言う
こともあろうか、ドフラミンゴさんはまたわたしの分もお会計を済ませてくれたのである



食後、少しお喋りをしていたら店員らしき人がドアをノックしてから入って来た
恐らく会計だろう、と思ったわたしは財布を取ろうとカバンに手をかけのだが
ドフラミンゴさんはわたしを片手で制すと、「請求はいつもんとこに送っとけ。」と言い放って店員を部屋から追い出した

少なくとも自分の分は払おうとしていたわたしは、「払います。」と抗議の声を上げるが、聞き入れてもらえなかった
それどころか、「また俺と食事に行ってくれんならそんときは払ってもらうさ。」と前にわたしが言った言葉と似た様な言葉で返された

そう言われては仕方なく、素直にご馳走になることにしたのだ


停めていた車に乗り込み、店を後にする
空は暗く、道を照らす街頭が眩しかった

それからしばらく、車内は静かな時間が続いた
無言でも居心地がいい、という間柄ではないが食事の間に色々とお互いのことを話して少し打ち解けたということもあってか苦ではなかった

その話の中でドフラミンゴさんがあの超有名な会社の社長さんだと聞いたときはすごく驚いた
そりゃ普通の人とは違うと思うわけだ


一人でそんなことを考えていたら「フフッ」という笑い声が隣から聞こえてきた
なんだろうとそちらに顔を向けると赤く光る信号から目を離してこちらを向いているドフラミンゴさんと目が合った
そして赤だった信号がすぐ青に変わると、ドフラミンゴさんは視線を前へと戻した

「どうしたんですか?」

「いや、俺の仕事が分かった瞬間の紗良チャンの顔を思い出したらちょっとな」

「え!?そんなに変な顔してましたか?」

「変じゃなくて、"危ない仕事じゃなくて良かった"って顔」

そう言われてハッとする
そう思ったのは確かだが、まさか顔に出ていたとは思わなかった

失礼な態度をしたことに「すみません。」とすぐに謝れば別に気にしていなかったように「フフフ…」とドフラミンゴさんは笑う

「謝ることはねぇよ。よく言われる。ただ、ホッとして笑ってんのが可愛かったと思ってな。」

「……っ。」

さらりと言われた可愛いという言葉にちょっと照れてドフラミンゴさんから目を逸らす
そんなわたしの態度にまたドフラミンゴさんは楽しそうな笑みをこぼした



そんなやり取りをしながらふと、窓から外を覗くと見慣れた景色が通り過ぎていく
もうそろそろ約束の最寄り駅に着くだろう

まだ2回しか会っていないのに一緒にいて楽しく充実した時間をドフラミンゴさんと過ごせたな、と思い返す
これでさよならはちょっと寂しい気もする

だから、去り際にでもまだ交換していない連絡先くらい教えてもらおうかな

そんなことを密かに思った



わたしが利用している最寄り駅は結構大きく、夜の遅い時間でも人でにぎわっている
そのため、ドフラミンゴさんは人通りの少ない道に車を止めてくれた

「あの……本当にありがとうございました。すごく楽しかったです。」

車を出る前に軽く頭を下げてもう一度しっかりとお礼を言う
それから顔を上げると、そこには会ってからずっとあった楽しそうなニヤッとした笑顔ではなく、優しくふわっとした笑みをこぼすドフラミンゴさんがいた

その笑いがあまりにも優しくてカッコよかったから、わたしの胸がキュッとしたのが分かった


そんなわたしに、ドフラミンゴさんは手を伸ばして頬に触れる
そして、少し躊躇うようにしてからわたしの頭を優しく引き寄せた

わたしも抵抗することなく目をつぶり受け入れる

優しく合わさった唇は少ししてから軽いリップ音とともに離れてく

それが少し名残り惜しくて瞼をゆっくりと開けてドフラミンゴさんを見上げる
サングラス越しに合ったであろう目が笑うと、ドフラミンゴさんはわたしの髪を耳に掛けてもう一度、後頭部を引き寄せた

再び重ねられた唇は優しく触れ合い、啄ばむように何回も角度を変えて合わさった



しばらくして、やっと唇を離すと、ドフラミンゴさんは呆れたように笑った

「…ったく、約束通り何もしないで帰そうと思ってたんだがな。」

そう言うとドフラミンゴさんは止めていたエンジンををかけ始めた


「……紗良チャン。明日の予定は?あるなら今すぐ降りろ。」

そう言ってドフラミンゴさんはわたしの方を見る


明日の予定は何もない

けれど、ドフラミンゴさんが言ってるのはそういうことじゃないことはすぐに分かる
嘘でも「ある」と言えばそのまま車から降りて家に帰れるだろう
だが、「ない」と言えば家には帰さないということだろう
つまりはそういうことで、夜を共にするかどうかの話だ

「ドフラミンゴさんはずるいですね。わたしが決めるんですか?」

「なんだ、無理矢理の方が良かったのか?」

わたしの問いにドフラミンゴさんは今日ずっと浮かべていたようなニヤっとした笑みを浮かべて聞き返してきた

「まぁ…流れに身を任せればそれなりに言い訳とかできて簡単だったんですけど……でも、聞かれたので正直に答えますよ。」

そう言ってドフラミンゴさんと視線を合わせてから「予定はないです。」とだけ言って微笑んだ


それを聞いたドフラミンゴさんは楽しそうに口元をニンマリさせて「そうか。」と答えて車を出した

そのまま、最寄り駅にわたしが降りることなく車はそこを後にした





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