Middle & Short

□約束の日まで
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南の海のとある島の海岸からわたしは、どこまでも続く海をぼんやりと眺めていた
その綺麗な青は静かで時折聞こえてくるカモメの声と岸に打ちあがる波の音が心地いい

「またここかよ。ほんと海が好きだな、お前は。」

その声に振り向くと、真っ赤が目に入ってくる
そこに居たのはその逆立った赤い髪が特徴的なキッドだった

キッドとは幼いころからの幼馴染で今は恋人である
親が小さい頃に死んでしまったわたしにはキッドが唯一心を許せる存在だった

そんなわたしがキッドを好きになるのには時間はかからず、ずっと片想いだったのが2、3年前にようやく実ったのだ


「ん、まぁね。なんかわたしの心を映しているようで落ち着くの。楽しいときはカモメや魚がたくさんいて賑やかで、つらいときは話を聞いてくれてるかのように穏やかで、泣きたいときはその涙を攫ってくれるように荒れてるの。」

「…そうかよ。今日は穏やかな海だが、つらいことでもあったのか。」

少し心配そうにわたしのことを見つめる瞳にふっ、と微笑みを漏らす

「違うよ。今はキッドが側に居てくれるから静かなの。」

「は?」

「キッドの側は安心するから。」

呟くように小さな声で言う
すると、キッドは驚いたように少しだけ目を見開いてから、嬉しそうに優しそうな目をした


そのあと、少しだけ無言の時間が続いてからキッドは優しくすくようにわたしの髪に触れた

「……俺、海に出ようと思ってんだけどよ。」

キッドは小さな声で、でもしっかりと力強くわたしに言った
もともとそれを考えていたことは知っていたから、わたしは海にやっていた視線をキッドに向けて微笑んだ

「うん。そろそろだろうなって思ってた。」

「あぁ。俺は海賊王を目指す。」

そう言う彼の顔はとても凛々しくて、力強くたくましかった



「キッドなら絶対なれるよ。」

だって、キッドは誰よりも自分の想いに正直で、誰よりも強くて仲間を大切に思える人だもの
ちょっと喧嘩っ早いのも派手に暴れちゃうのも誰よりも強い想いがあるからこそ

そんなキッドが進む道に間違いはないし、ワンピースだって絶対にある


「あぁ、だから……お前も」
そう言ったキッドの言葉を遮るように「わたしは行かないよ」と呟いた

キッドならわたしを誘ってくれるだろうと思っていた
すごく一緒に行きたい気持ちはあるけれどよく考えた結果なのである


多分、わたしが一緒に行きたいと言えばキッドは連れて言ってくれるし、全てのものからわたしを守ってくれると言ってくれると思う


「なんでだよ!?俺が絶対お前を守るって約束する。」

ほらね
そして、キッドはきっとその約束を守ってくれる

だって、キッドは強いもん

だけど………だけど、どれだけキッドがそう言ってくれて、その約束を守ってくれても、きっといつか、途中でわたし自身が足手まといになる自分を許せなくなる

それは、誰よりもキッドが海賊王になることを願って信じているわたしには耐え難かった


「………ねぇ、キッド。わたしはキッドを信じてる。わたしはキッドが海賊王になれると思うし、約束すればその約束は絶対守ってくれるって知ってる。」

「ならっ……!!」

「でも、一緒には行けない。わたしはここで待ってる。」

わたしはしっかりとキッドの目を見つめてそう言い切った


「なんだよっ、なんでだよ!?お前は平気なのか!?俺と離れても大丈夫なのかよ!?」

そう叫ぶキッドに少し微笑んでからわたしは海の方へと視線を向けた


「大丈夫じゃないよ。きっと沢山心配するし、寂しくて泣いちゃうかも。1番好きなキッドの逞しくて暖かい腕の中でもっと一緒に過ごしたいよ。でもね、決めたの!キッドだって知ってるでしょ?わたしが1回決めたら頑固だってこと」

「………。」

「だからさ、わたしはここに残る。これが自分が1番後悔しない選択だと思うから。でも、いくつか約束して。」

そう言って、わたしはキッドの方を振り返った
そこには、眉間にシワを寄せて真っ赤な目でわたしを見つめるキッドがいて、わたしはそのままキッドに駆け寄って抱きついた

「キッド……。わたしを最初と最後の女の子にしてね。キッドは男の子だししょうがないから、旅の途中は目を瞑ってあげる。でも、最後はわたし。わたしはキッドが最初で最後の男の人って約束するから。」

キッドの抱きしめる腕の力が強くなり、わたしの耳元でキッドの声が聞こえた

「当たり前だろ。どんだけ離れていても時間が経っても、1番大切で俺が愛するのはお前だけだ。」

「うん……っ、約束だよ。あとね、ちゃんと帰ってきたらそのときこそはわたしを船に乗せて一緒に海に出して。そのときまでに、きっと、絶対、海賊王に相応しい女になって待ってるから。」

「おうよ。」


その力強いキッドの返事に、わたしは顔をあげてキッドを見つめた

「キッド…。大好き。」

それだけ伝えると、少し背伸びをしてキッドの唇に自分のそれを重ねた












いってらっしゃい、キッド
絶対帰って来てね、ここで待ってるから

約束の日まで





 

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