Middle & Short

□またな。
1ページ/5ページ





初めて言葉を交わした外海の男はとても大きくていつも人を見下したような笑い方をする人だった





初めての遠征
初めての島
初めて蛇姫様から頼まれたお使い

全てがわたしにとって初めてのもので、九蛇の海賊船に乗れたことが誇らしかった


「フッフッフ、こんなところで何してんだ?」


少し浮かれ気味にお使いに行った街から船へと走っていた時にいきなり声をかけられた

「何者だ!?」

ここは街はずれた森の中、ここから先には九蛇の船しかない

となれば、蛇姫様を狙った賊かもしれない。
でなくても厄介事を船へと持ち込むことだけはごめんだ。


そう思って足を止め、後ろを振り返る
が、しかし、そこには木や草が茂っているだけで誰の姿はなかった

けれど、肌にビリビリと感じる覇気はとても大きく、見聞色の覇気を使わずしてもだいたいの相手の居場所が分かる

「何の用だ。わたしは九蛇海賊団に属する戦士。必要とあらば相手をするぞ、男。」

声を荒げて叫べば、覇気での威圧が収まり、代わりに「フッフッフ…」という楽しそうな笑いと共にピンク色のモフモフとした上着を羽織った大男が現れた

「威勢のいい女だな。街でイイ女がいると思って追ってきたが、まさかあの女帝のとこの戦士だったとは。」

わたしが九蛇海賊団の戦士だと知っても怯えることも逃げることもなく、むしろ男の口元に浮かんでいた笑みは更に深くなった


大抵の外海の男は九蛇の名を聞くだけで逃げ出すと聞いていたが、この男は顔色一つ変えることなく楽しそうだ
先程の大きな覇気からしてただ者ではないことは明白

しかし、どうにかしてこの男を立ち退かせなければいけない、そう思って「それが分かったらさっさと消えろ、男。」威嚇を込めて言い放ち、背負っている矢に手をかけた


蛇姫様に危害を与えるつもりではないことは分かったが、だからと言って自分を追って来たというこの男を易々と船に引き連れるわけにはいかない

だって、蛇姫様に関係のない私事でみんなの手を煩わせるわけにはいかないから


しかし、わたしが向ける矢にも睨みつける目にも動じず男はふてぶてしく目の前で木に背中を預けてわたしを見下ろす

「おいおい、お前女帝の船に居て俺の名前も知らねぇのか?」

「男なんぞに興味はない。」

呆れたように驚く男の言葉をピシャリとはねつける

しかし、そんなわたしの態度を気にした様子もなく男はゆっくりとわたしの方へと歩きだした
それに合わせて距離を縮ませまいとわたしの足も同じテンポで後退る


「連れねぇなぁ…。俺はお前のとこの女帝と同じ七武海だぜ?」

「何っ!?」

男の口から想像もしていなかった言葉が出て来て、驚いたのと同時に、わたしの背中が木の幹にぶつかった


「俺はドンキホーテ・ドフラミンゴだ。」

その言葉と同時にわたしの足は完全に止まった

ドンキホーテ・ドフラミンゴと言えば外海に疎いわたしでも知っている名前で、いい噂は一つとして聞いたことがない

初めて会った男が七武海でしかも、ドンキホーテ・ドフラミンゴなんて信じられるわけがない
そんな疑いの眼差しで相手を見つめるも、この余裕と先程の覇気からして嘘でもない気がする

そんな一瞬の動揺の隙を取られ、いつの間にかドフラミンゴの顔が目の前にあり、後ろには木、両脇にはドフラミンゴの腕という逃げ場のない状況になっていた


敵であろう男に油断を見せ、逃げることすらできない自分に唇を噛む


「…んで?」

そんなわたしの心情を察することなく、ドフラミンゴはわたしに短く疑問を発する
とは言え、何を聞かれているのか理解できていないわたしは頭にハテナマークを浮かべながら目の前にいるドフラミンゴを見上げた

「俺が名乗ったんだからお前が名乗るのが普通だろうが。なんていうんだよ、名前。」

ドフラミンゴが言った言葉に「あぁ、名前か。」なんて思うも、何故教える必要があるのかと開けた口を閉じた

その様子から何か感じたのか、ドフラミンゴは口元をへの字に歪め、「なんだよ、言いたくねぇのか?名前くらいいいだろうが減るもんじゃねぇし。」と近かった距離をさらに縮めて威圧をかける

しかし、素直に教えてやるのも嫌でわたしは口を閉ざしたまま動かなかった



それを見たドフラミンゴは、はぁー、と深いため息を吐き、「おいおい、九蛇の戦士は相手が名乗ったら名乗り返すっていう簡単な礼儀一つできねぇのか。」なんて挑発染みた言葉を吐き捨てた

その物言いにカチンときたものの悔しさを押し殺してドフラミンゴの問いに答えた


「……っ、紗良だ。これで満足か、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」

「フフフッ、紗良チャンか。」

それを聞いたドフラミンゴは唇を上に釣り上げて、上機嫌に笑いながらわたしから距離を取った

名前を教えたらあっさりと引いたドフラミンゴに少し驚きながらも、お使いの途中だったことを思い出して急いで船へと戻ろうとドフラミンゴに背を向けた

すると、後ろから「紗良チャン。」と声をかけられ、咄嗟に反応してしまった


「……なんだ。気安く名前を呼ぶな。」

眉間にシワを寄せながら答えると「フッフッフ」という笑い声が返って来た
その反応に無言でもう一度背を向けようとしたとき「またな、紗良チャン。」そんなセリフが聞こえた

そう言ったドフラミンゴの顔はとても楽しそうで、わたしは特に何も言わず船へと戻った








これでもうドフラミンゴと会うことはないと思っていたわたしは、どうやら甘かったみたいだ







●●

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ