Middle & Short

□またな。
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九蛇の海賊は冒険するわけではなく、敵海賊船、商船から生活に必要になる積み荷を奪うことを目的としている
だから、基本的に一回の遠征で寄る島は1つか2つあるかないかだ

そして、前回の上陸から2か月が経っていた

それから必要だった物資は遭遇した船から奪うことができたものの、今回の遠征の目的である薬は未だに手に入ることができていなかった

「9時の方向に島を発見!!上陸しますか!?」

そろそろ食料や備品が尽きるというときに見張りからの報告が入った

運が良ければここで目的の薬も手に入れたいところ
そんな願いも込めてわたしたちは上陸することにした


前回の上陸はドンキホーテ・ドフラミンゴが現れ、わたしは頼まれたお使いに予想以上の時間をかけてしまい、船にいたみんなを心配させてしまった
この失敗から恐らく、今回はわたしは船番になるだろう

街に降りて外海の世界をしっかり見てみたい気もするが、蛇姫様もほとんど船に残っているので一緒に残れるとなれば光栄なことでもある

しかし、そんなわたしの考えとは裏腹にわたしの上陸許可はすんなりと了承された

というのは、お使いを頼まれたわけではなく、初めての遠征でまだ他の島を知らないだろうから出かけたければ出港前であれば遊びに出ていい、という船に残るみんなの心遣いからだった

エターナルポースを持ち、ログを貯める必要のないわたしたち九蛇海賊団は二泊のみすることに決め、島の端に船を停めた

やはり、外海に出たからにはみんなの言う通り街に降りたいというのが本音
しかし、どうも船番をするみんなのことを思うと浮かれて出かけられないのも事実
だから、わたしは今日と明日の午前は船に残ることを決めた





何も変わることなく船に残った1日と半日が終わり、わたしは街へ出る準備をする

お使いじゃない分、自由に時間を使えて自分の興味あるものを見たり買えたりできるのはとても楽しみだ

十分なお金と片時も離さず持ち歩いている弓矢を方に提げて「行ってきます!!」とみんなに声をかけて街へと向かった


ワクワクした気持ちで人が居る大きな街に出れば、衣服も食べ物も何もかもが九蛇とは違ったものに溢れている
そんな真新しい世界を見ながらわたしはショーウインドーに飾られた様々な色や形をしたものに目を奪われる

しかし、そこに飾られる洋服やアクセサリーは可愛らしく、美しく、目を奪われるのだけれど、戦闘を好むわたしにはどうも邪魔になりそうなものばかりで買うことはなかった


そんな中、ハッと目についたのはただの公園にある一台の屋台
そこに並ぶのは色とりどりの果物をふんわりとした生クリームと生地で包み込んだクレープだった

精を付けるためにどうも九蛇ではお肉ばかりを食べてしまうが、たまにはこういう甘そうなのも食べてみたい、と一つ買うことにする

しかし、メニューを見るもどれも聞いたことのない名前ばかりでどれにしようかと悩む
きっと、この島でしか取れない、または九蛇では取れない果物ばかりなのだろう


しばらくメニューとにらめっこをしていると、隣から声がした

「フッフッフ…九蛇の女戦士とはいえ、こういうのは好きなのか。」

特徴的な笑い方とどこか聞いたことのある男の声に反射的に距離を取って弓を向ける
そんなわたしの反応に男、ドフラミンゴは「おいおい、そんな反応されたら傷つく。」なんて微塵も傷ついた様子もなく言った

「何の用だ。」

「フッフッフ、そんなに警戒するな。たまたま紗良チャンを見つけたもんだから声をかけただけだ。買わねぇのか?」


そう話すドフラミンゴだが、わたしはしばらく睨んだまま動かなかった
が、しかし、どうも本当に何もする気はないらしく殺気どころか覇気も出さず、わたしの方を楽しそうに見つめているだけだった

本当の目的は読めないままだが、とりあえずの安全を確認すると、わたしは弓を納め、もと居たメニューの前へと戻った

「何を頼むんだ?」

隣からメニューを覗き込むようにドフラミンゴはわたしに聞いてきたが、「…分からない。」とだけ答える

何しろ、わたしにとって、並んでいる文字は最早呪文である
そんなわたしの心情が分かったのか、ドフラミンゴはメニューの一つを指さして「これとか美味そうだぞ。」なんて言った

「…そうか。ならばそれにしよう。」

内容が分からない以上、ドフラミンゴの言うものを断る理由がなく小さく呟いてポケットからお金を出した
……のだが、何故かドフラミンゴがわたしのクレープを持ち、すでに支払いは済まされていた

「何の真似だ?」

どうも先程から何がしたいのか読めないこの男に不審な目を向けながら訪ねる


「何の真似も何も、女が欲しがるもんくらい買ってやるのが男ってもんだ。九蛇には男がいねぇから知らねぇんだろうけどな、フッフッフ」

そう言いながらドフラミンゴはわたしにクレープを差し出して来た

男がどうするなんて知らないわたしは「そうなのか。」と素直に受け取るしかなかった

渡されたクレープは綺麗なピンク色な果物が使われていて、甘くおいしそうな匂いが漂っていた


「ありがとう。」

男の行動心理など全く分からないが、人からもらったら礼を言うのが筋だろう、と初めてこの男に笑顔を向けた


「フフフフ…そんなんで笑ってもらえるなら買ったかいがあったってもんだ。」

そう言って笑うとドフラミンゴは近くにあったベンチに腰を掛けた
そのまま隣をポンポンと叩くのは座って食べろという意味だろう

わたしはゆっくりとドフラミンゴの隣に腰を下ろし、早速クレープにかぶりつく



「…っ!?美味しい!!」

ただ甘いだけじゃなく、ほのかに花のような匂いが香っていて、後から程よい酸味が口に広がる
街を歩き疲れたわたしにはピッタリな味だった


「それなら良かった。」

この味を進めてくれたドフラミンゴはそれだけ言うと、あとは夢中になって食べるわたしを楽しそうに見つめていた


隣に座っている間、特にわたしたちの間に会話はなかったけれど、なんとなくそれでよかった気がする



「うまそうに食べるな。」

もうすぐで食べ終わりそうなときに、ドフラミンゴがそう呟いた


「……最後、食べるか?」

何度か途中で聞こうかと迷った質問をようやく口に出して、「買ってくれたのはドフラミンゴだし」、と控えめに残ったクレープを差し出した

「…そうだな。ありがたくもらっとくか。」

少しの間クレープを見た後に、そう呟いてドフラミンゴはわたしの手からそのままクレープにかぶりついた


「甘ェ…」
そう呟きながらドフラミンゴは立ち上がった

クレープをわたしに買ってくれて、隣に座って、でも特に会話はなくて
何がしたかったのか分からないドフラミンゴはわたしの頭に手を置いて「またな、紗良チャン。」と言って立ち去った行った


わたしはそんなドフラミンゴが立ち去る背中を見つめたまましばらくベンチに座っていた









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