Middle & Short
□またな。
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それからドフラミンゴはわたしが島に寄るたびにわたしに会いに来た
その現れ方は最初のときの様に突然後ろから声をかけてくることがほとんどだった
ときには、その島の本をくれたり、ただ海を一緒に眺めたり、劇を見に行ったことも食事をしたこともあった
そして最後には必ず、名前を呼んで「またな。」と言ってくれる
1つの島で一緒にいる時間は短かったし、特別なことはなかったけれど、回数を重ねる度に上陸してドフラミンゴに会うのが楽しみになっていった
今回は何をくれるのだろうか、どこへ連れて行ってくれるのだろうか、そんなことを遠征の度に思うようになった
しかし、ドフラミンゴは決まってわたしが一人のときに来るし、わたしも男と、しかもドフラミンゴと慣れあっているなど仲間に言うことも出来ずにいる
ドフラミンゴと初めて会って何回目かの遠征と上陸
今回は九蛇へ帰るための食料や備品の調達のみで停泊はなく船を出す予定だった
そのため、船内は慌ただしくみんなが駆けまわっている
だから今回はドフラミンゴに会う時間はないだろう
もしも買い物のために街へと下りれば、恐らくドフラミンゴは今回もわたしに会いに来てくれる
そんな気がしたから、遠征に私情は二の次だ、とわたしは船を下りずに、船番を申し出た
最初のときの様にドフラミンゴに捕まって時間を食ってしまってはまたみんなの足を引っ張ってしまう
船では部屋や甲板の掃除、ゴミを出したりと主に帰りの航海に向けての準備をしていた
女処ということもあり、そこまでひどい汚れがあるわけではないが、ここは蛇姫様が乗る船、綺麗であるに越したことはない
「紗良〜、コレ外に干しといて!!」
その中でも洗濯を任されたわたしはテキパキと現れた洋服を甲板に干していく
今日は日差しがとてもよく、色とりどりの洋服が中をはためく
そんな洋服を眺めながらも頭の中に過るのはドフラミンゴのこと
今回は島に来ているのだろうか、会えないとなったらどう思う?
今回会えなければ次の遠征はいつかは分からない
そうなればわたしのことなど忘れられてしまうかもしれない
わたしの都合で勝手に今回会うことはあきらめたのに、そんな考えがグルグルと途切れることなく巡る
こんな風に会いたいと、会えないことが不安に思うことが来るとは思わなかった
別に、わたしとドフラミンゴの間に関係はない
ただただ会いたいのだ
そんなことを思いながらボーっと綺麗に並んだ洗濯物を眺めていると、ビュッと強い風が吹いた
その拍子に干していた洗濯物のいくつかがふわりと空中を舞う
「あっ…!!」
折角綺麗に洗った洗濯物が砂浜に落ちるのを見てはぁ、と落胆の声を漏らす
そしてすぐ、落ちた洋服を見失わないうちに船を下りて砂浜に足を付ける
海に浸かる前に、波に攫われる前に次々と洋服を回収し、残った一着のもとへと駆け寄った
と同時にもう一度風が吹き、どんどん船から遠い方へと運ばれる
やっと最後の洋服に追いついたとき、そこは船が小さく見えるくらい離れたところにある森の入口だった
こんなところまで…、そんなことを思いながら洋服を拾い上げようと屈むと「フフフフ…」という特徴のある声が聞こえた
もしかしなくても、その声は最初こそ警戒していたが今になっては待ち望んでいたものであった
「ドフラミンゴ…」
「フフフフ…、今日は船番か?ちっとも船から出て来ねぇから待ちくたびれた。」
「…今回の上陸は停泊しないんだ。それでみんな忙しくてな。わたしだけ遊びに下りるわけにはいかなかったんだ。許せ。」
会いたかった、なんてとてもじゃないが言えないわたしはドフラミンゴに会えた嬉しさに跳ね上がる心を悟らせまいと極めて普通を意識して言葉を紡ぐ
一体いつからわたしはこんなんになってしまったのだろう
ドフラミンゴに会えないと思えば心臓は締め付けられるように痛み、一度目にすればすごい勢いで心臓が動き出す
いつだったか、ドフラミンゴに手を引かれたときは自分の体がコントロールできなくなったかの様に熱くなったのも覚えている
全てドフラミンゴが原因だというのに悪い気もしない
わたしはどうしたというのだろうか…
そんなことを思いながらこれまたドフラミンゴと目線を合わせられず、ドフラミンゴの足元を見つめていた
「…そうか。そしたらあんまり時間かけてらんねぇな。」
そう言ってドフラミンゴはポケットから小さな箱を出した
「九蛇は戦闘民族だからな、あんまりこういうのはやらねぇようにしていたんだが…今回ばかりは受け取ってくれ。」
その言葉に、足元にあった目線を少しだけ上げて差し出された箱に移す
開かれた箱の中にはいくつか前の島で可愛いと言った金にピンクダイヤが埋め込まれた指輪が光っていた
それに思わず驚いて、視線をドフラミンゴの顔に向けると嬉しそうに口元を歪めたドフラミンゴとサングラス越しに目が合った
「フッフッフ、やっと俺の方を向いたか」
目が合うと、心臓がドキンと脈を打ち、なぜか視線を逸らしたくなって指輪に目をやると顎を掴まれて無理矢理視線を合わせられた
久しぶりに見るドフラミンゴの顔は、恐らくカッコいいという言葉が合うのだろう
なんだか目を合わせているだけで恥ずかしくなって、顔に熱が集まるのが良く分かる
「んで、この指輪だが…別にいつでも付けろとは言わねぇよ。ただ、受け取ってくれればいい。」
そう言われた言葉に、わたしは「あぁ。」とだけ返した
そうじゃないと、なぜか涙が出そうだったから
悲しいわけでも、嫌なわけでもない
なのに涙が出そうになった
ドフラミンゴは付ける必要はないと言っていたが、毎日つけたいと思うくらいには嬉しかった
合えないと思っていたドフラミンゴに会えたのが、そして贈り物をもらったのが嬉しかったし、いくつか前の島での他愛もない出来事を覚えてくれたのも嬉しかった
わたしの心からなんとも言えない感情が溢れるように出てくる
そんなとき、船の方から「紗良ー!!」とわたしを探す声が聞こえて来た
きっと、もう出港するのだろう
わたしはドフラミンゴから指輪と箱を受け取ると、しっかりと自分の意思でドフラミンゴを見つめて「ありがとう。大切にする。」とだけ伝えて船に向かって走り出した
「紗良チャン。」
後ろから聞こえるその声に少しだけ立ち止まって振り返る
「バイバイ。」
ドフラミンゴは口元に弧を描いてそれだけ言うと、わたしとは反対の森の中へと歩いて行った
いつもと同じ
突然ドフラミンゴは現れて、最後は名前を呼んでから分かれる
…けれど、今日はなぜかそれに違和感があった
その違和感を胸に抱えながら、汚れた洗濯物とドフラミンゴにもらった指をを持ってみんなが待つ船へと走って戻った