Middle & Short

□やっぱり君が
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白い雪がふわりとわたしの頬に触れた瞬間、水になって流れ出す

ローと連絡が取れなくなってから10ヶ月
最後に電話越しで声を聞いたのは今日みたいに雪が降り積もった日だった


別れたわけじゃない、とは思ってる

ただ、最後にローの声を聞いたときはすごく疲れていて、
だけど、アメリカで本格的に医学を学ぶことにしたローに、わたしが出来ることなんてほとんどなかった
側で支えてあげられることが出来たら、そんな後悔が心を支配する

けれど、それはもう"たられば"でしかなくて

10ヶ月も連絡がないし
メッセージを送っても返信もない

そんなことが続けば、向こうでいい人ができちゃったかな、とか、もしかして、自然消滅?なんて嫌な言葉が次々と思い浮かぶのは必然でしかない

友だちにも何度、それはもう終わってるんだよ、そんなひどい人のことは忘れて新しい恋をしな、と言われたか

飲み会にも合コンにもたくさん参加した
何人かには声だって掛けられたし、いい雰囲気にもなった
なのに、わたしは「こんなことしたらローどう思うだろうか?」とか「これって浮気?」なんて、最後の最後までローのことしか考えていなかった

結局わたしはローじゃなきゃダメで、最悪でもちゃんとケジメがつくまではローを待つことにした



今だって、わたしは去年のクリスマスにローと来たイルミネーションの前に1人で立っている

ここは初めてローと出会った場所
田舎から出て来て道が分からず迷っていたところを助けてもらったのだ

それから初めてデートした場所で、そして最後にデートした場所だった

ここには思い出が多すぎて、自分は今日ここに何しに来たのだろうか、と隣にいないローを想って虚しくなる

去年はすごく楽しくて、はしゃいでいたわたしをローは「たかが色のついた電球だろ。」なんて笑いながら、それでも「楽しいねっ」って声を掛けると「そうだな。」って笑って返してくれた


去年の楽しかったはずの思い出が今では苦しくてしょうがない
イルミネーションにあった視線も気持ちと比例してどんどん地面に溶けていく雪に移っていく

もう帰ろうかな、そんなことを思ったとき、わたしの目の前を誰かが横切った
もともと何人もの人がわたしの目の前を歩いていたが、今の人は懐かしい、ローと同じ香水を纏っていた


「ローっ!」

たぶん、人違い
それでも、もしかしたらっていう希望もあってわたしはその人が消えた方へと駆けていく

その人が通った一瞬で、もう忘れてかけてたローの体温、温もりがわたしの体に蘇った


会いたい。抱きしめてほしい。

そんな思いに駆られてクリスマスイブのイルミネーションを背中に、恋人たちで溢れかえる道をわたしは「すみません、すみません」と声をかけながら走った
顔も服装も下を向いていて見てなかったから、自分でももう誰を追っていたか分からない
けれど、どうしても諦められず一度足を止めて辺りを見回す

でも、そこにはローらしき人はいなくて、わたしは溜め息を吐く


「ほんとわたし何してんだろ……」

先程の虚しさが込み上げて来て、わたしは立ちすくんだままぼうっと遠くに見えるイルミネーションを眺めた





「おい、どこに行くんだよ?」

どうしようもなくなって、イルミネーションに背を向けて、駅へと足を踏み出したわたしの腕を誰かが掴んで引っ張った

そして、そのままわたしはその人の腕の中へと収まる

寒さと急な状況にわたしの体と頭はうまく動かなかったけれど

背中に感じる体温と微かに香る香水は先ほどまで求めていたもので
後ろから回された手に見えるのは奇抜なタトゥーとDEATHの文字


「急に走りやがって…お前って奴は本当に…」

後ろから聞こえる声はもうずっと聞いていなかった懐かしいものだった

「ロー………」

「ん、ただいま」

小さく名前を呟けば、ローはそう言ってから抱きしめていた腕を解いた
そして、わたしはそのままローを振り返る


そこにいたのは紛れもなくわたしの知っているローだった
怒りたいこと聞きたいこと言いたいことたくさんあったけれど、何よりもまず、わたしの目から涙が零れ落ちた


「紗良……」

そのままローは今度は正面からわたしを抱き寄せた


「悪かった。連絡出来なくて」

それだけ言うと、ローはわたしを抱き寄せたまま指先でわたしの涙を拭った


「うん、ずっと怖かったし不安だった。嫌われたかと思ったし、アメリカで彼女作っちゃったかと思った。友達にも自然消滅だって言われて、飲み会とか合コンにも誘われた。」


そう言ったわたしの言葉にローは眉間にシワを寄せる
だけど、「でも……」と続けるわたしに黙って耳を傾けた


「でも……、わたしは待ってたよ。ちゃんと待ってた。」

「……。」

しっかりとローを見つめて言葉を紡ぐ


「そしてローも帰って来てくれた。」

「当たり前だろ。」

「うん…、ロー…………おかえり。」


そう言って微笑むと、わたしはローの背中に回した腕にギュッと力を込めて、抱き付いた







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