LongStory
□籠の中の鳥は夢を見る
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奪ってしまった命は取り戻せない
その責任は重くて…
重たくて…
潰されそうになる
でも俺には仲間がいたからこそ立ち直り,またここにいる
感謝しても仕切れないほどに…
だけど…たまに立ち直ったずなのに辛くなる時があるんだ…
新開は朝早くに学校の飼育小屋にいた
「ほーら,うさ吉ご飯だよ」
うさ吉と言う名の子兎は新開の与えた餌を黙々と食べていた
「美味しいか?慌てなくてもまだあるぞ」
新開はうさ吉の体を優しく撫で微笑んだ,それはそれは優しく労るように
新開は飼育委員ではない,本人の意思でやっている
何故なら彼はこの子兎の親を不慮の事故により殺してしまったからだ
まだ小さい無垢な子兎をそのままにできるはずがなく新開は子兎の面倒をみているのだ
「おっ!うさ吉おめぇさん少し大きくなったな」
新開は座ったまま優しく抱きあげた
うさ吉は新開の頬にすり寄った
「ははっくすぐったいよ,うさ吉」
スンスン…Σピクッ
ダッ!
「あっ!うさ吉どこへ行くんだ!」
突然うさ吉は鼻をひくひくさせると新開の腕をすり抜け走り去っていった
新開は慌ててあとを追いかけたがなかなか捕まらずそのまま,まがり角を曲がるとすぐそこにうさ吉がいたが誰かの腕の中にいた,視線を腕の主に向けるとその腕の主は雛子だった
「うさ吉やっと見つけた!って飛鳥じゃないか!」
『うさ吉?隼人君,このうさちゃん探してた?』
雛子は可愛いねともふもふした兎の顔を自分の頬に寄せすりすりした
その姿は男だと言うのに何とも愛らしく,新開は暫しその愛らし光景を眺めていた
「そうなんだ。その子うさ吉って言うんだ」
『そうか,うさ吉か!よろしくうさ吉君』
雛子がうさ吉の手を掴み優しく握手すると,うさ吉も挨拶代わりに自分から擦り寄ってきた
雛子はくすぐったいよと身をよじらせながらうさ吉を新開に渡した
「珍しいね,朝練かい?」
『そうなんだ珍しいだろ,折角早く起きたし,朝練しに来たんだ』
朝練は各々の判断で参加できる
雛子は家が遠く寮生活ではない為,滅多に参加が出来ないのだ
二人はうさ吉を小屋に戻しに行くと,雛子が何気なく質問した言葉に新開の手が止まった
『隼人君は飼育委員か何かをしてるのかい?』
「………」
『…っ「いや違う…」
『………』
後ろ姿で表情は見えないがその一言で一瞬にして空気が変わった事に気付いた雛子は話をかえようとしたが新開はそのまま答えた
「俺さ…うさ吉の母親をレースの時にひき殺してしまったんだ…」
『隼人君…』
雛子は新開の肩に触れると新開は振り返り笑顔を見せた
「大丈夫だよ…」
『………』
雛子はその笑顔の意味を知っていた,新開のそれは悲しい時や辛い事を隠す笑顔…そしてホントは気付いて欲しいサインと言う事を
「さっ,飛鳥朝練に行こっか」
『…あぁ』
そのあとはいつも通りの新開に戻っていた
お昼時間,新開はうさ吉の所に向かっていた
「女の子達が調理実習で余った人参をくれたから,うさ吉喜ぶだろうな」
人参が入った袋を持ち飼育小屋に続く道を歩き角を曲がれば小屋という時に聞きなれた声が聞こえ無意識に足を止めた
『うさ吉君,美味しいかい?これ調理実習した女の子に貰ったんだぁ〜』
そこには雛子がうさ吉の両脇を持ち上げていた
『Σん?うさ吉君,うさ吉ちゃんだったんだね!』
雛子はアル一点を見つめ驚いていた,新開はそう言えば飛鳥にうさ吉の性別を教えてないなぁと思い話しかけようと姿を現そうと思った瞬間,聞こえてきた衝撃的な言葉で体が止まった
『ふふふっ,私と同じだね』
男装の時の雛子の声色より若干高めの声で優しく笑った
『この事はうさ吉ちゃんのご主人様や皆には内緒だよ,女の子同士のヒミツ♪』
雛子は人差し指を口元に寄せ内緒のポーズをした,その姿は女の子らしく愛らしかった
『お母様に知られてしまったら,また何も無い窮屈な世界に戻らなきゃいけないし折角,友達になれた皆と離れるのは嫌…それに裕介さんに凄く迷惑かけてしまうわ…』
「………」
『それに私は自分の意思で色々な事を知りたい,学びたい!与えられたモノや知識だけじゃなく!たとえ逃れられない家の責務があったとしても!束の間の自由だとしても,私は私の力で前に進みたい一歩でも前に!そして大切な仲間を助けられる様に』
さっきまでの憂いた表情とはうって代わって今の雛子は揺るぎない意思を表した凛とした姿だった
“飛鳥…おめぇさんはなんて強くて美しいんだ…”
『それなのに…今朝,見せた隼人君の笑顔,とても自然な笑顔だったけど,どこか辛そうで悲しそうだった…そんな彼に私は何も言ってあげられなかったの,情けないよね私…』
雛子は眉を潜め微笑んだ隼人はその笑顔の意味を知っていた,その笑顔は悲しい時や辛い時に隠す笑顔と言う事を
“そんなことないさ飛鳥,ソレに気付いてくれた,それだけで俺は…”
「…救われたよ」
新開は気付かれぬよう静かにその場を後にした
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